刀鍛冶の里を襲う「上弦の伍」の玉壺(画像はアニメ「鬼滅の刃」公式HPより)
刀鍛冶の里を襲う「上弦の伍」の玉壺(画像はアニメ「鬼滅の刃」公式HPより)

【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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アニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編のストーリーが進むなかで、里を襲った上弦の伍・玉壺(ぎょっこ)の「残酷さ」が見えてきた。登場初期こそ、その口調やコミカルな動きから、「かわいい」とすら言われた玉壺であるが、彼の「鬼らしい残忍さ」は、アニメが進むにつれてより鮮明になっていく。鬼の中でも屈指の残虐さを誇る玉壺の特性について、刀鍛冶たちと鬼殺隊に対する言動から考察してみる。

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■ホラーテイストな玉壺の描写

 玉壺が初めて登場したのは、鬼の総領・鬼舞辻無惨から上弦の鬼(=実力上位の鬼の精鋭)だけが招集された「パワハラ会議」だった。上位5番目の鬼という実力を持ちながらも、そのときの玉壺の描かれ方は終始コミカルだった。無惨から理不尽に責められ、暴力を振るわれても、「いい…とてもいい……」と歓喜し、上弦の弐・童磨(どうま)に無理なお願いをされて焦る姿もユーモラスで笑いを誘った。

 しかし、刀鍛冶の里に姿を見せた玉壺には、一転してホラーの要素が強調される。闇夜の中、石階段にあらわれた玉壺は、自作の小さな壺の中に刀鍛冶の男を引き込んで、生きたまま骨を砕いて喰った。人喰いをしておきながら玉壺は「不味い 不味い」と人体の大部分を食べ残し、半死の人間を吐瀉物のような液体とともに壺から吐き出す。あまりの残酷な描写に、SNS上に「怖すぎる」「気味が悪い」という感想が寄せられるほどだった。

■玉壺の人間時代と性格

『鬼滅の刃』の公式ファンブック『鬼殺隊見聞録』の玉壺の項目で、彼の姿は「複数の人体を切り分け、各部位を接いだ(ついだ)ような姿」と説明されている。『鬼殺隊見聞録・弐』に収録されている、「大正コソコソ噂話」にはこのようなエピソードが披露されていた。

<海岸近くの漁村の外れに住んでいて、魚の死骸を集めたり、とにかく変なことばかり繰り返して嫌がられていた。(略)玉壺は自分をからかいにきた村の子供を殺し、壺に詰めていた。(『鬼殺隊見聞録・弐』集英社、2021年、158頁「玉壺」)>

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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異様な美的感覚と弱者への加虐性