ダイナミックプライシングは、タクシー業界で浸透するのだろうか
ダイナミックプライシングは、タクシー業界で浸透するのだろうか

 時間帯や天候など需要に応じてタクシーの運賃を上げたり下げたりする制度「ダイナミックプライシング」が、今月から国土交通省によって導入された。

【写真】繁華街で列をなすタクシー

 この仕組みは申請があったタクシー事業者が対象で、通常の運賃と比べて5割引きから5割増しの範囲で価格を変動させることができる。料金が適切な水準かどうかについて、国土交通省に3カ月ごとに報告することが求められるという。また、この制度は配車アプリを利用した時のみ適用され、目的地までの確定料金が表示される。

 配車アプリでタクシーを利用することが多い都内在住の自営業の男性(46)はこの取り組みを歓迎する。

「タクシー料金は以前からもっと柔軟に設定すればいいのにと感じていました。例えば、雨の日や電車がない深夜だったら、多少割高でもタクシーに乗りたい。料金を一律にする必要はないんじゃないですかね」

 タクシー事業者の反応はどうだろうか。全国のタクシー会社に問い合わせたほか、ドライバーにも話を聞いたところ、効果を疑問視する声は少なくない。

 千葉県内のタクシー会社は「ダイナミックプライシングを導入する予定はありません。そもそも変動する運賃が適切な水準なのか判断が難しい。利用客が負担を感じたら申し訳ないですし、収益が下がるようだと会社の経営は死活問題になる。もう少し具体的な収益プランを示してほしいです」と話す。

 福岡県のタクシー事業者は「ウチは導入しません。まだ世間に浸透していないのが大きな理由です。お客さんは配車アプリで料金が確定してから利用しますが、深夜に酔っ払って乗ってきて『料金が高い』とクレームをつけてくるトラブルがないとも言い切れない」と懸念する。

 横浜市でタクシードライバーとして30年働く男性(55)も否定的だ。

「コロナ禍でタクシーの需要が下がって売り上げが落ち、人員削減で運転手が不足している。日中のお客さんが少ない時間帯に乗車運賃が下げられたら、申し訳ないけどドライバーは収益が少ないから一斉に休憩するよ。こっちも生活がかかっているからね。この制度は近場で乗り降りするお客さんより、遠距離でお金を落としてくれるお客さんのメリットが大きいと思う。個人的にはドライバー、近距離移動のお客さんには優しくないと感じてしまう」

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