人生を自由に選択していくために役に立つことの二つ目は、この世界がどうなっているのかを知ることです。たとえば、「法則」と「法律」の違いは何でしょうか?英語では法則も法律も「law」(神によって決められた秩序)なので違いを考えにくいのですが、日本語では明確に区別されていて、考えやすくなっています。「法則」というのは、ものを投げれば落ちるとか、お腹がすくと力が出なくなるとか、そういう、いつでもどこでも誰に対してでも共通してあてはまること。法律というのは、それぞれの場所で人間が決めたルールのことです。 

 ぼくたちには、「法則」を変えることはできませんが、「法律」は変えられるかもしれません。これも世界の構造の一つです。ぼくたちは行動を選択するときに「やりたいかどうか」だけでなく「可能性」について考えます。世界がどうなっているのかを知っていると、可能性を推測しやすくなって、選択する際の基準になります(法律も法則も同じlawという単語で一緒にされているというのも、その世界の構造です!)。 

 中世ヨーロッパでは、リベラルアーツは7つの教科に分けられていました。文法・修辞学・論理学という言語に関する3科目と、算学・幾何学・音楽・天文学という世界の構造に関する4科目です。

 簡単に説明すると、文法は言葉のルール、修辞学は伝わりやすくする技術、論理学は正しく考える方法です。算学は数を使って一次元の世界を考える方法、幾何学は図形を使って二次元(平面)・三次元(立体)の世界を考える方法。音楽は時間の流れを意識して考える方法。天文学はそれらすべてが合わさった四次元世界(時空間)、この世界そのものについて考えることです。

 これらの学問は、日本では長いこと「職業に直接関係がない実用的ではない純粋な教養」と言われてきましたが、ヨーロッパでは「専門家である前にすぐれた人間でなければならない」という考えを育んできました。教養というのは、すぐに役に立つことではないかもしれませんが、人生においてずっと影響を与え続ける学びのことなのです。

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)/「知窓学舎」塾長、実践教育ジャーナリスト、多摩大学大学院客員教授。大手予備校などで中学受験の講師として20年勤めた後、2014年「探究×受験」を実践する統合型学習塾「知窓学舎」を創設。実際に中学・高校や大学院で行っている「リベラルアーツ」の授業をベースにした『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)を3月20日に発売

(構成 教育エディター 江口祐子/生活・文化編集部)