初戦の中国戦で“二刀流”として試合に出場した大谷翔平
初戦の中国戦で“二刀流”として試合に出場した大谷翔平

 日本中の野球ファンが注目した侍ジャパンのワールド・ベースボール・クラシック(WBC)初戦は、中国を相手に苦しむ場面はあったものの、終盤に突き放して8対1の大差で白星スタートとなった。勝利の最大の立役者といえば、やはり大谷翔平(エンゼルス)になるだろう。まず投手として3回まで1人の走者も許さないパーフェクトピッチングを披露。4回にワンアウトから初ヒットを浴びたものの、続く2人の打者から連続三振を奪い、先発投手としてほぼ完璧な結果を残して見せた。

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 この日の投球の軸となっていたのがスライダーだ。立ち上がりこそ少し制御できていないボールもあったもののすぐに修正。スピードは140キロ弱に抑えながらも、その変化の鋭さは目を見張るものがあり、中国代表の右打者が思わず腰を引いたボールがストライクという場面も度々見られ、奪った5個の三振の決め球も全てがスライダーだった。4回に初めて走者を背負い、昨年までソフトバンクでプレーしていた中国代表の真砂勇介(日立製作所)を迎えた場面でもスライダーを5球続けて三振を奪っているのを見ても、この日のスライダーに自信を持っていたことがうかがえる。

 かつてはスプリットのイメージが強かったが、昨シーズンはスライダーの割合を大幅に増やして投手成績を伸ばしており、WBCの大舞台でもその成長を見せたと言えるだろう。ただ次回の登板では当然相手もこの日の投球内容を研究してくるだけに、あまり使わなかったスプリットやツーシームなど他の変化球をどこまで仕上げることができるかがカギとなりそうだ。

 一方、打者としても4回の第2打席で貴重な追加点となる2点タイムリーツーベースを放ち、8回には先頭打者としてライト前ヒットで出塁して大量点の足掛かりを作るなど2安打2打点2四球を記録。3番バッターとして十分な働きを見せた。中国バッテリーも最大限の警戒を見せる中で、ホームランこそ出なかったものの、広角に打ち分けてマルチヒットをマークしたのはさすがという他ない。少し気になるのは速いボールへの対応だ。本大会前の阪神との強化試合も含めて少し甘いストレート、ツーシームにも差し込まれているケースが見られた。例年であればオープン戦で調整している時期であることを考えると致し方ない部分はあるが、一次ラウンドの残り3試合でさらに状態を上げてくることを期待したい。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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