昨年来の急激な円安や物価高、長期金利の上昇圧力によって、異次元緩和はいま激しく、きしんでいる。政府が物価高対策を強いられるなかでも、あいかわらず物価を引き上げるための緩和策を日銀が続けるという矛盾。それでも黒田総裁は強気一辺倒だった。記者会見で「金融緩和を継続し、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標の持続的・安定的な実現をめざす」「金融政策の効果は十分にあった」と言い続けた。

 とはいえ、いまや日銀内でも「異次元緩和をこのまま守り切れる」と考える者はおそらく1人もいない。新体制は修正に乗り出さざるをえない、というのが日銀関係者のほぼ一致した見方だ。

 その新体制を率いる総裁が、よりによって異次元緩和の「総合プロデューサー」雨宮氏になるのだとすれば、かなり皮肉な話である。政府内にも、黒田総裁への世論の反発が強まれば雨宮氏の共同責任は避けられない、とする慎重論は当然あった。ただ、「この難局を乗り切るにはむしろ問題点を知り尽くした雨宮氏にやってもらうのが一番いい」(財務省幹部)という声は関係者のあいだにも少なくなかった。

■日銀OBからも「A級戦犯」批判

 1000兆円を超えた政府の長期債務残高(借金)はさらに膨らみ続けている。それでも、なんとか維持されているのは、日銀による国債の巨額買い入れのおかげである。

とはいえ、これが政府の野放図な財政拡張を可能にした。政治家たちから財政規律の意識を失わせた。これほど財政が悪化すれば、ふつうなら国債価格が大幅に下落(長期金利が大幅に上昇)することで市場に警報装置が鳴り響く。ところが日銀が紙幣を(電子データも含め)刷りまくって、国債を買い支えるYCC政策のもとでは、国債価格は維持され、警報装置は起動しない。

そのような状態にはなってはいけないと、米欧の中央銀行はYCCを導入してこなかった。そこまで手を広げてしまった雨宮氏を、多くの日銀OBは「黒田総裁と並ぶA級戦犯」と強く批判する。そうした声は当然、本人の耳にも届いていたはずだ。

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岸田政権はどう考えたのか