これは4年ほど前から始まった最新の治療法です。手術後に抗がん剤を使う化学療法も10年ほど前から始まっており、手術と化学療法を合わせることで治療成績をあげているのです。
「現在、膵がんの5年生存率は10%。ほかのがんに比べて低いですよね。でも、私が膵がんの手術をはじめた20年前の5年生存率は6%でした。わずか4%ですが、この数字の中にいる一人ひとりの患者さんにとっては、貴重な進歩だと思っています。今後はもっと増えていくと思っています」(齋浦医師)
■広がるロボット手術。より安全に、より正確に
からだへの負担の少ない手術として、さまざまな病気で積極的に取り入れられているのが腹腔鏡手術です。しかし膵がん手術のなかでも、特に膵頭十二指腸切除術という手術は複雑で高難度。死亡事故もあり、腹腔鏡手術が実施できる病院は限られていました。そんななか、最近注目されているのがロボット支援下による腹腔鏡手術です。
「肉眼では見えない細い血管も3Dで立体的に拡大されてよく見えます。また、自由に角度を調整できるロボット鉗子によって、術者の指の動きも正確に反映されるのです。膵臓周囲の微細な結果や構造を確認しつつ、適切なラインで切除できるので、患者さんにとってからだの負担が小さいのはもちろんのこと、出血も少なく、より安全に正確に手術ができるのです」(高医師)
まだ実施できる病院は限られていますが、今後はもっと広がっていくはずです。
難治性といわれる膵がん。とくに「手術ができるかどうか」は生死を分ける岐路になるため、「できる」と言ってくれる病院を探してしまう患者も多いそうです。しかし前出の齋浦医師はこう言います。
「膵がんの場合、医師の技術で命を救えるケースは少ないと思います。膵がんは進行の早いがんです。セカンドオピニオンを受けるのはよいと思いますが、いくつも回っている時間的な余裕はありません。目の前にいる医師を信じて、治療をスタートすることも重要です」
(文・神 素子)
【取材した医師】
奈良県総合医療センター副院長 高 済峯 医師
順天堂大学順天堂医院 肝・胆・膵外科主任教授 齋浦明夫 医師
「膵がん」についての詳しい治療法や医療機関の選び方、治療件数の多い医療機関のデータについては、2023年2月27日発売の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』をご覧ください。