■最後は腹をくくった
あとは自分の素性をどこまで出すか、伏せるか。夫とも話し、最後は腹をくくった。
「刑務所にいた2年半は、税金で食べさせてもらい、学ぶ機会まで与えてもらった。社会に恩があるのだから、今度は私が累犯者を減らすために、名前も顔も『クソみたいな人生』も、すべて出して活動しようと決めました。批判もあるだろうと思いましたが、覚悟を見せて取り組まないと認めていただけないですよね」
「依存症子」の湯浅静香、としてブログや動画サイトで依存症に関する情報発信を始め、自らの経験を赤裸々につづった。昨夏に相談事業である「碧の森」を立ち上げた。
相談に訪れるのは服役中の依存症者の家族が目立つ。湯浅さんの勧めで依存症に関する書籍を受刑者に差し入れしたり、湯浅さんのブログを印刷して送っている家族も多いという。
「まずは、依存症とは何かを知ってほしいです。それと、累犯者は自分はもうダメだと思ってしまっている人が多かったのですが、あなたと同じ元受刑者が、依存症の治療を続けながら社会でやり直そうとしている。こういう人間が実際にいるんだよということを知ってほしいと思っています」
湯浅さんは、犯罪者の更生を手助けする「保護司」になることを目標に掲げている。犯罪歴がある人への法的制約があり現実は厳しいが、それも覚悟の上だ。いつかは刑務所に出向き、自らの経験とその後を話す機会ができることも望んでいる。
「私だからこそ、元犯罪者や刑務所の中にいる人たちにできることがあるはずなんです。長い時間がかかると思いますが、ひとつひとつ、やり遂げたいと思っています」
決して平たんではないが、「クソ」ではない新たな人生を歩んでいる。(AERA dot.編集部・國府田英之)