※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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日本性感染症学会の理事で梅毒委員会委員長を務める、神戸大学病院泌尿器科の重村克巳医師
日本性感染症学会の理事で梅毒委員会委員長を務める、神戸大学病院泌尿器科の重村克巳医師

 性感染症の一つである梅毒。現在感染者数が急増しており、2022年感染者数(9月11日まで)が全国で8456人に達し、すでに過去最多を更新している。その背景に「典型的な症状ばかりではないため、医師でも診断が難しい病気」という要因がある。正しい知識について、日本性感染症学会の理事で梅毒委員会委員長を務める、神戸大学病院泌尿器科の重村克巳医師に話を聞いた。

【グラフ】過去最多!梅毒患者報告数推移

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■放置して症状が軽快しても、治癒したわけではない

 梅毒は、主に性行為により、梅毒トレポネーマという細菌に感染して起こる。

 感染から1週間から3カ月たつと、菌の侵入部位である唇や口内、陰部周辺にただれや潰瘍(かいよう)が起きる。この時期を第1期という。侵入部位近くのリンパ節が腫(は)れることもある。これらの症状は自覚しないことがあるうえに、この時期は性行為でほかへ感染させるリスクも高いと考えられている。

 第1期の症状は治療しなくても1カ月程度でいったん消えてしまうが、治癒したわけではない。その後、全身の皮膚に赤い斑点(はんてん)やブツブツとした発疹が現れることが多いのだ。この時期を第2期という。

梅毒患者報告数の推移
梅毒患者報告数の推移

 重要なのは、全く健康に見えてしまう「潜伏梅毒」という状態があることで、症状がなくても性交渉でほかへ感染させるリスクがある。重村医師は次のように話す。

「梅毒は、典型的な症状ではないケースが多いと認識していただきたいです。ネットなどで調べて『梅毒ではなさそうだ』と自己判断してしまう人がいるのですが、医師にとっても診断が非常に難しい病気なのです。検査の解釈が難しく、症状や問診などの結果を総合的に判断する必要があります。見逃しがちな病気なので、患者さんも医療者も『梅毒かもしれない』と念頭に置いていただきたいと思います」

 典型的な症状のほかに、口からのどの粘膜が腫れる症状や、視力の低下、関節の痛み、頭痛、脱毛など、多彩な症状がある。「まさか梅毒によるものとは」と驚く症状が少なくない。ちなみに第3、4期もあるが、日本で見られることはあまりないという。

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