「僕が着任したのは、『コウノドリ』の連載化が決まったころでした。リアリティーを追求するため医療監修にも力を入れたいとのことで、新生児編の医療監修者として協力することになったのです」

『コウノドリ』は累計発行部数800万部を数え、後にテレビドラマ化もされるなど、大きな反響を呼んだ。未受診妊婦や医療裁判、出生前診断など難しいテーマも取り上げる姿勢は、医療関係者からも「現場の実情を反映している」と高い評価を得た。

「作中では、例えば出生前診断を取り上げる場合は、受ける人と受けない人それぞれの選択があって、双方に事情があるというように、偏りのない啓発をしています」

 医療監修に携わる中で、今西医師自身も学ぶこと、考えることが多かったという。

「望まない妊娠や医療費を払えない妊婦さんに接する中で、目の前の妊婦さんや赤ちゃんを助けるだけでいいのかと考えるようになりました。社会問題を解決する仕組みづくりの必要性を感じ、18年から大学院で公衆衛生学を学んでいます。将来的には、正しい医療情報を届けることで、女性を苦しめる母性愛神話や医療デマをなくしたいと考えています」

■職場初の男性育休で「視野が広がった」

 10歳、9歳、1歳の3姉妹の父親でもある今西医師。三女の誕生時には、初めて育児休業を取得した。

「人手不足の新生児科で男性医師が育休をとることは珍しく、大阪母子医療センターでも僕が初のケースでした。上司や同僚の理解を得て、1カ月半の育休取得が実現しました」

 実際に家事と育児をやってみると、その大変さに驚いたと振り返る。

「医師の仕事はシフト制ですが、家事や育児はエンドレス。世の中のお母さんは本当にすごいなと思いました。育休を経験したことで視野が広がりましたし、復職後も以前に比べれば家事や育児に積極的に関われるようになったと思います」

 ツイッターなどでの積極的な発信でも知られる今西医師。今後は医師も社会とつながることが求められると語る。

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医師として「ミクロとマクロ」の視点を