※写真はイメージです(GettyImages)
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 プールの水を出しっぱなしにしてしまうなど、ミスで大きな損失を出した公務員に、自治体が損害額の一部を請求するケースが相次いでいる。中には数百万円という高額な例もあり、安定した身分の公務員とはいえ賛否両論がある。果たしてこうした「自腹弁償」の流れは加速していくのか。

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 2021年7月、高知市の小学校で教員がプールの水を止め忘れ、一週間出しっぱなしの状態となった。井戸水のため上水道代はかからなかったが、7月の下水道代は例年の同じ時期より10倍ほどとなる290万円にのぼった。市は今月、教諭に約66万円、校長と教頭にそれぞれ約33万円と、損失の半額程度となる計132万円を請求する方針を明らかにした。

 同様の事例は各自治体でも起きている。21年2月には、兵庫県が貯水槽の排水弁を閉め忘れた職員に対し、損害の半額程度に当たる300万円を請求したことを明らかにしたが、あまりに高い弁済額が物議を醸した。

 半額程度を請求する自治体の姿勢には根拠がある。過去に都立高校でプールの排水バルブを閉め忘れたまま給水を行ったため、100万円余りの余分な水道代が発生した事案があった。ある都民が独自に損害額を算定した上で「都はミスをした教職員らに全額を請求すべきだ」と提訴したが、裁判所は「賠償額は半額を限度とするのが相当」と判断した。請求は棄却された形だが、この「半額」の判断を兵庫県も参考にしていた。

 ただ、損失を出したとはいえ、仕事にミスはつきものだ。こうした公務員の「自腹弁償」に問題はないのか。また今後、この流れは加速していくのか。

 企業法務に詳しい村松由紀子弁護士(弁護士法人クローバー)は、「使用者(会社)が被用者(従業員)に賠償請求できる根拠として、1976年の最高裁の判例があります。会社は損害を与えた従業員に対して、『相当と認められる限度の金額』の賠償を請求できるとの判断です。公務員も同じで、『相当と認められる限度』であれば、弁償することに法的な問題はありません。拒否した場合は、自治体は公務員を相手に訴訟を起こすことができます」と、請求自体には法的問題がないことを前置きした上で、「請求額が『相当と認められる限度』なのかが問題になる」と指摘する。

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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