村松弁護士によると、悪意があったかなどの「事案の性質」。また、適切な人員配置や、水道メーターの定期チェックなどの予防措置がとられていたかが重要になるという。

「近年、似たような水道の閉め忘れの事案が報じられているにもかかわらず、教員一人で作業されていたとすれば、予防措置としては不十分な点があったように思います。その点をふまえ、校長と教頭に請求を分担したのかもしれません」と推察する。

 村松弁護士は、「統計はないものの、こうした(自腹弁償の)事案をよく目にするようになった印象があります」とし、こう疑問を呈す。

「公立の教員は残業代が出ないなどの制約があります。仕事に追われて一生懸命残業しても給与に反映されないのに、ミスをしたら金銭的負担が生じるという状況は過酷な気がします。将来、教員になろうかと考えている学生さんたちに、どう映るでしょうか。過度に責任を負わせる仕事が不人気になっていく可能性も否定はできません」

 兵庫県のケースもそうだったが、公務員に対しては「税金で食べている」という風当たりがある。損失の補填も税金で支払われるため、県民からミスに対し厳しい処分を望む声もあった。例えごく一部の意見であったとしても、市民感情を無視できないという事情が見え隠れする。

「自治体は同じような事案が生じないよう、定期的なチェックシステムを取り入れるなど、今以上にミスを防止する体制を整えたり、損害保険を導入したりする必要があるでしょう。一方で、自治体が職員に請求せざるを得ない背景には、市民感情への配慮があると思います。県民や市民の皆さんが個人への賠償請求をどう考えるかも、今後の対応に影響していくと思います」(村松弁護士)

 ミスした責任は確実にある。ただ、誰にでもミスはある。責任を追及しすぎるギスギスした世の中も疲れてしまう気がするが…。(AERAdot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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