写真はイメージです(Getty Images)
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、性被害を受けたと訴える草津町の元町議の女性の会見を見て感じたことについて。

【現物写真】リコール運動時のチラシを見る

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 群馬県草津町の元町議、新井祥子さんが町長を強制わいせつ容疑で刑事告訴した。新井さんが性被害を受けたという日から既に7年近くが経過し、来年1月には時効を迎えるタイミングだ。 

 町長はこれまで一貫して事件を否定し、新井さんを名誉毀損で訴えている。新井さんは2019年、町議会から除名処分を受け、いったんは群馬県の判断で復職するが、町議らによるリコール運動の結果、2020年12月に住民投票で失職した。

 新井さんは草津町議初めての、そして現在にいたるまで唯一の女性議員であった。

 12月13日、新井さんは群馬県庁で記者会見を行った。私はライブ配信で視聴した。新井さんは刑事告訴に踏み切った思いを語り、事件当日の町長との会話を録音した音声を発表した。新井さんの弁護士は、「新井さんは苦しみ抜かれ、それでもやはり事実を明らかにしたいということから告訴を決意された」と今回の告訴について話した。

 録音されていたのは、事件当日とされる日の町長と新井さんの会話だ。個人的なトラブルの相談について町長の言質を取るために録音していたという。褒められた行為ではないが、新井さんはポケットに録音機を忍ばせていた。

 そこには親しげな会話が残されていた。会話からは、2人が前日に消防団の出初め式に参加していたことがわかり、そこで日にちが特定され、さらに午前10時を知らせるチャイムが鳴ったことから時間も特定された。

 音声は性被害を証明するものではなく、事件があったと新井さんが主張する日時に町長と一緒にいたというだけの事実である。とはいえ、これは大きい。というのも、町長はこれまで「その日に2人では会っていない」「町長室のドアは開けっ放しにしていた」「新井議員を“祥子ちゃん”と呼んだことはない」などと議会で断言し、新井さんを虚言癖があると攻撃してきたからだ。ところが音声データには、ドアをノックし開閉する音、「祥子ちゃん」と呼びかける声も残っていた。少なくとも、町長にはこれまでの説明との矛盾を語る責任があるだろう。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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会場の記者たちの関心はそこになかった