7:疫病がはやった時は人を集めないこと

 7月12日に日本外国特派員協会で、日本女医会の理事の青木正美先生、前会長の前田佳子先生、フラワーデモの呼びかけ人の松尾亜紀子さん、看護師の宮子あずささん、東京都教職員組合の長野みゆきさん等と海外の関係者に向けて、パンデミック最中の東京五輪がいかにリスクがあり、特に女性に対してより過酷に働くことを訴えた。

 なかでも青木正美先生の発言は、SNSを通して50万回以上再生されるほどインパクトがあるものだった。

「(東京五輪・パラリンピックは)人類の生命維持に対する最大の冒涜です。会場を全て無観客にしようがしまいが、選手や関係者が世界中から一カ所に集まるなど、パンデミック下に絶対にやってはいけないことです。もしも、このままオリンピックを開けば、東京は巨大なエピセンターになってしまいます。そして選手や関係者がウイルスを自分の国に持ち帰れば、それによって多くの人命が失われることでしょう。今、私たち人類がしなければならないことは、みんなで集まってスポーツをすることではありません。お互いできるだけ離れて、パンデミックを終息させ、人類の命を守ることです」

 日本女医会は来年で120周年を迎える世界でも最も古い女医会の一つである。明治時代に医師を目指した女性の多くは産科医だった。夫に性病をうつされ、避妊もできず子どもを何人も産むことを強いられるような時代に、女性医師たちが女性たちのために自ら医学の道を切り開いた。医学部入試で女性を排除していた時代からは考えにくいが、1940年の東京五輪が決定した1930年代は、日本はアメリカに次いで世界で2番目に女医の多い国で、女性医師の育成に女性たちが力を注いできたのだ。そういう歴史がある日本女医会の医師2人が、個として名と顔を出し、パンデミックで女性たちがより追い詰められている事実、そして人類最大規模のイベントをこのような状況でやるべきではないことを明確に世界に発信したことの意味を噛みしめたい。この国の性差別に、怒り闘い、医師としての倫理観で闘おうとする横顔は、明治時代から変わらないのかもしれない。

次のページ
一瞬で凍り付いた無邪気な質問とは