これに対して、ホンダの「強み」は、効率の良いターボ性能だ。ターボとは排気ガスの力を利用して、ターボチャージャーを回して空気を圧縮してエンジンにより多くの空気を押し込む(過給する)機構のことだ。その性能は空気が薄くなればなるほど試され、2019年にホンダが1-2フィニッシュを飾ったブラジルGPの舞台であるインテルラゴスは標高が約800mと高く、ペナルティによってポールポジションを失った同年のメキシコGPが行われたメキシコ・シティはF1が開催されているサーキットの中で最も高い標高約2300mだった。

 弱点を強化するには、2つあるエネルギー回生システムのうち、MGU-Hでいかに長時間発電するかが重要となる。しかし、MGU-Hはターボと同軸で連結しているため、MGU-Hを回して発電させようとすると、その分ターボを回す排圧のエネルギーを失ってしまう。田辺TDの言う「バランスが重要になる」というのは、そのためだ。

 というのも、標高が高いサーキットというのは、数えるほどしかない。さらに昨年は新型コロナの影響で日程が大きく変更され、メキシコGPもブラジルGPも開催されず、ホンダは「強み」を生かすことができずにメルセデスの独走を許してしまった。果たして、F1ラストシーズンとなる2021年にホンダがどのようなバランスでターボとMGU-Hの稼働させるパワーユニットを投入するのか注目したい。

 そのホンダのパワーユニットを搭載するレッドブルも、ホンダが手ぶらでF1から去るのを避けるために、車体の開発に余念がない。

「ホンダの最終シーズンとなるであろう2021年に、最高の結果を達成するために我々も全力を注いでいく」 (レッドブル/クリスチャン・ホーナー代表)

 もうひとつ、2021年のF1が日本人にとって、特別な一年となる理由がある。それは、ホンダが育成したドライバーである角田裕毅がアルファタウリ・ホンダからデビューする。現在のF1は様々なセンサーが車体やパワーユニットに取り付けられており、リアルタイムで走行データをエンジニアたちが離れた場所から見ることができる。しかし、F1ドライバーの感性に勝るものはなく、彼らのフィードバックはいまなお、重要となっている。

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2021年は終わりであり、始まりでもある