さらに、ポジティブな言葉には、言われた側だけでなく、言った側にも心理的なメリットがあると杉野さんは話す。

「心理学の分野に『ポジティブ心理学』というものがあり、その中にアメリカの心理学者、ロバート・エモンズらによる『感謝介入』に関する研究があります。これは、1週間を振り返って感謝したことを紙に書き出すよう指示されたグループと、特に何の指示もされないグループに被験者を分け、10週間過ごしたところ、感謝を書き出したグループのほうが、幸福度が高かったという研究です。つまり、『感謝される』だけではなく、『感謝する』ことでも、人は幸福を感じられるということなんです」

 また、人には「自分をほめてくれる人に対しては、自分もほめてあげたい」という気持ちが生まれるという。これを心理学では「好意の返報性」という。たとえ最初はゲームだからと「仕方なく」ほめていたとしても、これによって、徐々にお互いを自然とほめ合えるようになり、人間関係がよくなっていく効果が期待できるという。

「ポジティブ思考になり幸福度が上がると、長生きするという研究もありますし、うつ病のリスクも下がるといわれています。コロナ禍でどうしてもメンタルが不安になりがちな今こそ、意識的にポジティブワードを口にすることは、自身の健康や良好な夫婦関係・家族関係を維持するのに役立つと思いますよ」(杉野さん)

 普段は照れくさくて相手をほめたり感謝したりすることがないという人も、ゲームだという口実があれば実行しやすい。夫婦や親子など、家族関係で悩んでいる人は、ぜひゲーム感覚で「ほめ合い合戦」をしてみては。(文/白井裕子)

杉野珠理(すぎの・じゅり)
公認心理師、臨床心理士。コミュニケーションラボ代表。心療内科でのカウンセリングのほか、企業や自治体、大手結婚相談所等のセミナーで講師を務める。1男1女の母。