「公園を利用するのは高齢者がほとんど。休日にはゲートボールなどをしています。でも女の子が見つかった土曜日は雨が降っていたから、人がいなかったんじゃないかな」

 公園を右手に見ながら直進すると、交通量の多い県道にさしかかる。南北にかかるこの道を南に向かって直進すれば交番だ。途中にはJR水戸線をまたぐこ線橋がかかっている。脇道にそれると、歩行者用の階段があった。のぼりはじめると、大通りからは死角になる。先ほどまで聞こえていた車の騒音がたちまち静かになった。ここを女児が歩いたとしたら、どんなに心細かっただろうか。思わず胸が締め付けられる。橋の頂上から見渡すと、大人に引率されながら集団で下校する小学生の姿がみえた。

 その後、橋を越えて数分歩くと「交番」という標識が見えた。右手をみると、2階建ての「犬塚交番」がある。駐車場にはパトカーが停まっていて、存在感を放っている。ここまで来れば、交番に気づかないということはなさそうだ。

 ここまで歩いて、記者は多くの人とすれ違った。女児も3時間半の道のりでたくさんの人とすれちがっただろう。だが栃木県警によると、女児が通行人に助けを求めた形跡はなかったという。なぜなのか。犯罪被害者の心理に詳しい、目白大学心理カウンセリング学科の齋藤梓専任講師は「助けを求めることに無力感を覚えていたのでは」と指摘する。

「一定期間閉じ込められていたなかで、『帰してくれ』と求めてもそれをことごとく止められていたとしたら、人に助けを求めることに無力感を覚えていても不思議ではありません。そもそも、彼女は伊藤容疑者に監禁されるとは思わなかったと思います。容疑者に“裏切られた”ことでそれが覆された。誰が信用できて誰が信用できないのか、わからなくなっていたのかもしれません」

 自力で交番にたどり着いた女児。幸いけがはなかったという。心配なのは、心のケアだ。

「トラウマ的な体験をすれば、不眠症状が出たり、周りを過剰に警戒してしまう恐れがあります。事件を思い出させるような行動も避けるでしょう。被害者は自らを責めてしまう傾向があります。彼女が安心して生活できる環境を整えることも重要ですが、周りの人が余計に傷つけてしまわないことも大事です」

 女児の心の回復を見守りたい。(AERA dot.編集部/井上啓太)