ハライチ岩井、初のエッセーが絶好調 “夢見ない”リアリストの日常にあふれる「深い学び」とは (2/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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ハライチ岩井、初のエッセーが絶好調 “夢見ない”リアリストの日常にあふれる「深い学び」とは

連載「道理で笑える ラリー遠田」

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「腐り芸人」として主張する笑いへの高い理想も人気。ハライチ・岩井勇気(C)朝日新聞社

「腐り芸人」として主張する笑いへの高い理想も人気。ハライチ・岩井勇気(C)朝日新聞社

 この爽やかな読後感の秘密は、誰よりもまず、岩井自身がそんな平凡な日常を心から楽しんでいるのが伝わってくるからだ。派手なイベントも大きな失敗も人生には不要。ただ、普通のことを普通に面白がる感性さえあればいい。物事を斜めに見る「腐り芸人」のイメージが強い岩井だが、その心根はどこかポジティブなのだ。

 そんな岩井の生き方を読み解く鍵となるのが、彼の「忘れっぽさ」と「器用さ」という2つの資質だ。この本にも記述があるのだが、岩井はたびたび忘れ物をしたり、人と会うための約束を忘れたりすることがあるという。

 忘れっぽいのは世の中では欠点だと思われがちだが、嫌なことを引きずらないですぐに気持ちを切り替えられるのは利点でもある。忘れっぽい人間は過去の記憶が薄いだけではなく、未来の自分にも期待していない。岩井は今を生きている。瞬間瞬間ごとに目の前にあるものに向き合い、それを味わっているのだ。

 また、岩井は持ち前の器用さで、どんなことをやってもすぐにコツをつかみ、短期間でそこそこの成果を出すことができる。学生時代はサッカーやピアノが得意で、お笑いを始めてからもすぐにブレークを果たした。エッセイを書くのもこの本が初めてだったが、すでに高い評価を受けている。

 過去とも未来ともつながっていない岩井がそこそこ世渡りができてしまうのは、この器用さがあるからだ。初めての状況に出くわしても、すぐにそれを受け入れて、コツをつかみ、楽しむことができる。そうやって岩井は今この瞬間だけを味わう生き方を貫いてきた。

 過去を振り返らず、未来を目指さない生き方は危なっかしく見えるかもしれない。だが、そもそも私たちはいつでも「今」にしか生きていない。今だけに向き合う岩井の生き方こそが、真の意味で地に足がついているとも言えるのだ。

 他人と自分を比べない。過去を悔やまない。未来に期待しない。誰よりもクールで現実的な考えを持つ岩井は、今日も当たり前の日常を当たり前に楽しんでいる。(文/ラリー遠田)


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ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・ライター、お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)など著書多数。近著は『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)。http://owa-writer.com/

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