対して、ヴィッセルに関わる多くの人々には、忘れられない震災体験があった。ヴィッセルが背負ったのは、震災復興の象徴という、いわば宿命的な立ち位置。また大きなスポーツビジネスも絡んでいる。クラブの立ち振る舞いも難しくなる。

 バルセロナ戦は高額チケットにも関わらず、約2万8千人のファンが訪れた。試合注目度、訪れたファン層ともに、普段のJリーグとは異なった。この日のような、いわゆるライト層も多い試合では、単純に楽しい、ノレる、盛り上げる演出になるのも仕方ない。

 だからこそ今後はどうなるのか……。

 そして、この日の神戸には、普段の日常が戻ってきた。ヴィッセル側からは『神戸讃歌』が歌われた。

 この光景が過去と現在そして未来をつないでいるというのは、決して大げさではない。これこそが「Jリーグ100年構想」の理念。神戸におけるスポーツを通しての震災復興の1つではないか。

『ロールコール』がヤンキースとファンの距離を縮めたように、神戸には『神戸讃歌』がある。ここにはもっと強い絆もある。

 試合は劣勢のヴィッセルが終盤に追いついてドロー。やはりダービーマッチはただでは終わらない。内容はもちろん「勝ち負け」に執着する試合はおもしろい。それを支えているのは間違いなく、ファン・サポーターであることも痛感させられた。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍やホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を不定期に更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。