優勝した花巻東の校歌を聞く佐々木朗希投手(左から2人目)。その心境は果たして…。(c)朝日新聞社
優勝した花巻東の校歌を聞く佐々木朗希投手(左から2人目)。その心境は果たして…。(c)朝日新聞社
九回裏、佐々木朗希投手(左)と言葉を交わす国保陽平監督。(c)朝日新聞社
九回裏、佐々木朗希投手(左)と言葉を交わす国保陽平監督。(c)朝日新聞社

 履正社(大阪)の初優勝で幕を閉じた夏の甲子園。今年も、数々の熱戦が繰り広げられたが、地方大会で起きたあの出来事は多くの野球ファンにとって衝撃的だったのではないだろうか。

【監督と言葉を交わす佐々木朗希投手】

高校野球の岩手大会決勝で、大船渡の最速163キロ右腕・佐々木朗希投手が連投による故障を防ぐために登板しなかったことが波紋を呼んだ。登板回避の判断を国保陽平監督の”英断”として支持する世論が多いなか、「故障を恐れて、大舞台を諦めるのか」「甲子園を目指してきた他の部員たちの夢を犠牲にするのか」といった、登板回避否認派の意見も少なからず見られた。試合後、話題の中心は「登板回避の是非」から「投手の酷使問題」にまで発展し、球数制限など今後の高校野球のあり方を左右する大きな議論を巻き起こした。

そうした議論が目立つ一方で、一部の関係者の間では、国保監督の「登板回避」の判断は「勝つための戦略」だったとして、その采配を評価する声が上がっている。一体どういうことか。

「花巻東はデータをしっかりとるチームなので、国保監督はその点を気にされていたのではないでしょうか」

 そう分析するのは、スポーツジャーナリストの氏原英明氏だ。

「データを重視するのは、今となっては強豪校が多く取り入れていますが、花巻東は菊池雄星の頃からも徹底していました。ただデータがしっかりしている分、そこに頼りすぎてしまうところもあって、大会で初めて登板する投手には苦戦する時があります」

 この試合、先発に起用されたのは2番手でも3番手でもなく、大会初登板の柴田貴広投手だった。岩手県内で花巻東のライバルでもある盛岡大付の前監督、沢田真一氏も口をそろえる。

「花巻東の相手校に対するデータ分析のレベルの高さは県内でも有名です。他球場の、それも決勝戦まで対戦することのないチームの試合まで分析しているようです。大船渡が先発投手に初登板の投手を起用したのは、そうした事情を知っていたからでしょう」

次のページ
先発した投手は好投手だった