もう一つ大切なのは、自分の問題行動の引き金となるものを徹底的に避けることです。痴漢なら、混雑を避け、すいている早朝の電車を利用したり、電車通勤からマイカー通勤や自転車通勤に替えたり、場合によっては徒歩通勤圏への引っ越しも検討します。盗撮なら、クリニックに来たときにスマホのカメラのレンズ部分を割ってもらいます。

 これらのスケジュールの立て方や引き金の避け方について、ワークブックに書き込んだり、患者同士で“知恵”を出し合って考え、自分の行動を決めていきます。自分一人ではなかなか効果的な対処法が思いつかなくても、グループでのディスカッションのなかで適切な方法がわかってくるものです。このほか、落ち込んだときにすぐに性的な行動にはけ口を求めることがないように、落ち込んだ気持ちのコントロールの仕方なども、同様にしてみんなで考え、行動に移していきます。

 性に関する問題はプライベート性が高く、患者さんは一人で悶々とした思いを募らせることになりますが、グループセラピーに参加すると、「同じような問題を抱えた人がこんなにいるんだ」と心強い存在になっていきます。さらにディスカッションを通して、「(痴漢や盗撮のことを)みんな平気で話している」「今まで口に出して言いづらかった問題も、ここでは話しても安全なんだ」となります。グループセラピーでは、医療者側も含めて、批判せずにとにかく聞くのがルールなのです。こうした安心感が治療を進みやすくします。

 グループセラピーは週1回、6カ月間を1クールとしています。ディスカッションなどを通して、毎回、治療のための新しいスキルを身につけられるプログラムになっています。受診しているのは、痴漢をはじめとする犯罪絡みで紹介されてきた人がほとんどで、全員男性です。30代・40代が多く、50代以降の人は少数です。

 私は最初に「最低、2年間は通ってください」とお話しします。薬物(覚せい剤)依存の場合、異常をきたした脳の働きが正常に戻り始めるのが、薬物をやめてから約2年後とされ、性依存を含め、ほかの依存症でも同様の脳の異常が起こっていると考えられるからです。2年で正常に戻るのではなく、正常に戻り始めるのが2年後。だから、通院の頻度は減らしても、性依存は2年以上、治療を続けてほしいのです。

(文/近藤昭彦)