そして息子の立身出世のためにと鯉のぼりを立てるようになる。これは中国の故事が由来といわれている。黄河の上流にある、竜門という険しい滝を、鯉がさかのぼって見事に泳ぎあがる。滝を登りきった鯉は、その勢いのまま天に昇り、龍となった……5世紀の歴史書『後漢書』の一節、「登竜門伝説」だ。これに想を得て、鯉は男子栄達の象徴と武士たちは考え、こぞって鯉のぼりを飾った。端午の節句はこうして、男の子の節句ともなっていったというわけだ。

 節句の習慣は宮中や武家だけで行われていたが、江戸時代に入って大衆文化が花開くと、一気に庶民たちも真似るようになる。菖蒲湯がはやり、鯉のぼりや五月人形も少しずつ普及する。

 そして柏が大人気となった。ブナ化の樹木である柏は、ほかの木と同じように紅葉するのだが、このときに枯れた葉は落ちることなく冬を越す。そして新しい芽が吹いてから、役目を終えたように古い葉が舞い散っていく。こんな性質から柏は「跡継ぎが生まれ育つことを見守ることができる」縁起のいい樹であり、その葉でくるんだ餅は子孫繁栄のシンボルとして好まれた。現代の「子どもの日」のさまざまな風習は、こうして成立していったのだ。

 ちなみに「端午」とは、5月最初の午(うま)の日のこと。十二支のひとつ「午」がはじめにめぐってくる日を指していた。それが「午」を音読みすると「五」に通じるということで、5月5日が端午の節句だと定着していったのだ。

 いまも銭湯ではこの日、菖蒲湯が人気だ。スーパーマーケットなどでも風呂用の菖蒲を売る。香りの強い湯に浸かると、疲労回復や腰痛、神経痛、血行促進などの効能があるそうだ。

 5月5日、超大型連休も終盤。遊び疲れた人も仕事だった人も、菖蒲湯でリラックスして初夏を迎えてみてはどうだろうか。(文/室橋裕和)