上田さんの友人らも協力してくれた。イギリス在住の友人に加え、カナダで子育て中の友人も「今、誰かのために何かすることができていないけれど、釜ケ崎のおじさんに年賀状を送ることはできる」と年賀状を書いて送ってくれた。海外からの年賀状に驚いたおじさんは、「何か来た。どうしよう」とゲストハウスに持ってきたそうだ。

 年賀状を受け取ったおっちゃんたちは喜び、いそいそと返事を書いた。あるおっちゃんは、粘土でお地蔵さんを作って色を塗り、ハガキに張り付けた。字が上手く書けないおっちゃんには、上田さんらココルームのスタッフが、年賀状をくれた人の宛名を1枚1枚紙に書き、それを見ながら自分で書いてもらった。ちょうど寄付された画用紙と切手があったので、返信に使ってもらった。

 年賀状をきっかけに、見知らぬ人との交流が始まったおっちゃんもいる。文学好きの70代の男性は、年賀状をくれた年上の女性と、週1回、文通をしている。他にも手紙をやり取りしている人がいるという。

 大阪府貝塚市内の小学校に通う有志の児童らからも、おっちゃんたちに年賀状が届いた。上田さんは「『あけましておめでとう』といったよく使われる言葉でも、わざわざ書いて送ってくれたという気持ちがうれしかった」と話す。年賀状を受け取ったおっちゃんからは「去年もらった子どもに年賀状を送っていいかな」と相談された。上田さんは「学校に送ったらいいんちゃう」と返したという。

「今年もやってよ! 年賀状プロジェクト!」

 おっちゃんたちからまた声がかかった。上田さんは、再び釜ケ崎で暮らすおっちゃん、おばちゃんに「年賀状がほしいと思う人は連絡してください」と呼びかけている。12月上旬までに、約10人が手を挙げた。そして、彼・彼女らに年賀状を送ってみたい人を募っている。賛同者には、おっちゃんやおばちゃんの同意の下、送り先や近況を伝える。

「プロジェクトをやって、『聞いてみるもんやな』と思いました。私はこれまで年賀状について深く考えたことがなかったけれど、プライドもあるおじさんたちが、一段降りて頼んできた。おじさんたちが誰かとつながったり、やりとりがあったりすることは大事なことなのだろう、と思います」(上田さん) 

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プロジェクトの賛同者の中には…