ところが、11月19日にゴーン氏とケリー氏が東京地検特捜部に逮捕される。その3日後の同月22日に開かれた取締役会では、2人が欠けたことで、西川氏に近い役員の数が逆転して多数になった。もちろん西川氏の解任が提案されることはなく、逆にゴーン氏が会長を、ケリー氏は代表取締役を解任された。

 元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏は言う。

「WSJの報道が事実だとすると、事件の背景がまったく異なってくる。約4億円の報酬を得ている西川氏が、自らの地位を守ろうとした『個人的な動機』があった可能性が考えられるからです」

 特捜部にとってもWSJの報道は痛手だろう。司法取引で証拠を固め、羽田空港でゴーン氏を劇的に逮捕した。ところが、逮捕後に出てくる話題は、日産の最大の株主であるルノーと西川氏ら日産経営陣によるアライアンス(提携)をめぐるつばぜり合いばかり。ゴーン氏の“金”を巡る疑惑は後景に退いてしまった。そこにWSJの報道が出て、特捜部が日産のクーデターに利用されたかのような側面も明らかになってきた。

 ある特捜部OBは「特捜部は捜査に行き詰まっているのでは」と見ている。

「司法取引をしたんだから、逮捕前に証拠は十分にそろえたのかと思っていた。それが同じ金商法違反で再逮捕して、勾留延長なんて信じられない。これから新しい証拠が出てくるとも思えない。特捜部は、崖っぷちに追い込まれたけど、あきらめたくないから再逮捕しただけではないか。いつもは検察寄りの特捜部OBからも捜査批判が上がっている」

 そもそも、過少に記載されたという役員報酬は、ゴーン前会長が退任した後に「コンサルタント契約」などを結ぶことによって、毎年10億円程度、支払われることになっていたものだ。そのための「覚書」も交わしていて、西川氏も同意のサインをしていたとの報道もある。

 一方、ゴーン氏は取り調べで、退任後の報酬額は正式に決定したものではなく違法性はないと主張しているようだ。ちなみに金融庁は、役員報酬の虚偽記載での行政処分について「前例はない」と説明している。前出の郷原氏は言う。

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西川社長の逮捕は当然だが…