そうしたチームの体質を根本から作り替える必要に迫られたモンバエルツ。得意分野と自負する守備の組織的な構築、攻撃面は基本的なポジショニングから取りかかっていく。そのベースになるのが“メインテイン・ポジション"という考え方だ。つまり、ボールに全員が集まるのではなく、適度なポジションバランスを維持しながら攻撃に関わっていくことだ。

 例えば、サイドの選手がボールに合わせて常に中央に流れたままだと全体を広く使うコンセプトが崩れてしまう。中に入ること自体は問題ないが、基本的にアウトサイドにポジションを取ったところから、機を見て流れる動きがモンバエルツのスタンダードになる。日本の選手、特にアタッカーの選手は多くボールを触りたがるというが、最近の欧州トップリーグでは基本中の基本となる理論を根気強く指導した。

 いきなりディテールに入るのではなく、基盤のところから組み上げていくモンバエルツの指導方法は、その時その時の試合内容から“単調な戦術"と揶揄される向きもあった。その見方は現象の見解として的外れなわけではないが、CFGのミッションに則った周到なプランに基づくチーム作りの過程に見られた一端であることを指摘する声は、当時ほとんど聞かれなかった。

 2年目の2016年には新たなスポーツディレクターにCFGの使命を受けたアイザック・ドルが、夏にはCFGのトップクラブにあたるマンチェスター・シティーで新監督にジョゼップ・グアルディオラがそれぞれ就任した。プレミアリーグの強豪クラブで “ポジショナルプレー"理論に基づく先鋭的なフットボールが展開されると、間もなくCFG傘下のクラブにも情報共有された。

 ポジショナルプレーとは、攻守に渡りボールに直接関わっていない選手も含めて、チーム全体が組織として最適なポジションを取りながら相手に対して優勢を作っていく理論である。それをグアルディオラがインサイドの“ハーフスペース"を有効活用する具体的な戦術に落とし込み、チームに植え付けた。

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新監督ポステコグルーに託された宿題