人民元切り下げで他の通貨は
人民元切り下げで他の通貨は

 昨日、一昨日と2日連続で中国人民銀行が自国通貨である人民元の対ドルの水準を約3.5%切り下げました。過去にも中国は大幅な通貨の切り上げ、切り下げを行ってきました。1994年1月に1ドル=5.72元から8.28元に一挙に切り下げ、2005年半ばから2013年までにかけては8.27元から6.07元まで段階的に切り上げ措置をしてきました。

 今回の措置は、FRBの今後の政策変更および相対的な米ドル(USD)高による対外的な競争力を中国企業において維持するためと思われますが、日本と同じく資源等を大量に輸入している中国としては、今後国内物価の上昇が見込まれるため、はたして内需の面ではプラスになるのかどうか。

 また、株式市場への介入を行った翌月に、今度は為替市場への介入ということで、中国市場の自由化という点で意見もいろいろ出ており、今後の中国当局の動向が注目されるでしょう。

 為替市場では来月のFOMC(米公開市場委員会)を控え、米経済の環境改善を見込んで、USD高が進みやすい中、USD以外の各国通貨はそれぞれの国・地域の事情はあるものの、結果的にはほとんどが通貨安になっています。 日本も2013年と2014年の「黒田バズーカ(日銀黒田総裁による異次元緩和政策)」以降、円安が進み125円台まで上昇しました。日本の戦後の1ドル=360時台からの円高局面を考えてみれば、1990年代前半のバブル時期の水準にまで戻ったと言えます。 

 各国・地域の政治体制に対する市場の評価は別として、各国金融当局が通貨の水準を過渡に誘導した場合にはどうなるか。それが対外的な貿易・経常収支の問題に発展すれば、各国間でのあつれきが生じかねません。かつて、米国クリントン政権下では、日本が大幅な経常黒字を記録したことで、貿易問題に発展してジャパンバッシングが起こり、その後円高方向に為替水準が変化していきました。日本企業は自社の競争力維持と、相手国での雇用創出という政治的な要望を満たすため、こぞって海外進出することになりました。このように企業が自主的に行動する場合には、輸出先の労働環境も含めて関係改善方向に働き、相互依存という構図になって相手国とも良好な関係を築いていけるかと思います。

 今回の中国当局の措置は、国内の景況感改善の措置として捉えられるかもしれませんが、対外経常収支面で4200億ドルの黒字計上した2008年の状態を目指しているとすれば、対外収支の不均衡を警戒している国・地域にとっては政治的な問題に発展するかもしれません。

 欧州においては、第一次世界大戦後ドイツが通貨安と、ハイパーインフレを起こした歴史があり、それがその後再度の戦争につながったという苦々しい経験があります。戦後70年と言われる今年ですが、平和を破る争いの陰には常に経済の格差があります。最近あまり耳にしなくなりましたが、「Win=Win」の関係ともてはやしても、背景には誰かしらLooserがいるものです。市場においては常に言われることですが、「Give And Take(持ちつ持たれつ)」が、その時々の状況でバランスが取れる方が良いのではないでしょうか? 自国経済だけを優先させる通貨安競争は、はたしてグローバル経済にとっていいものかどうか。(FXストラテジスト 宗人)