「幸せになるために、人は生きているんじゃないの?」

 と、思う。

 そして、悲しくなってくる。

 ある時、町を歩いていたら、すごく不機嫌な男性に出会った。人を押しのけて歩いていた。わたしと母になぜかぶつかってきた。

 ぶつかっても、「すみません」のひと言もない。

「何よ! あの人!!」

 と、言いそうになったわたしに、母がひと言。

「そんな人もいるよ」

 平然としている。

「腹立つやん!」

 と、怒るわたしに母は言った。

「そんなもん、腹立ててたらきりがない。そんな人に腹立ててる時間がもったいない」

 わたしの父も弟も町の開業医。患者さんにはいろんな人がいる。

 締まる前に駆け込んできて、「診察してくれ」と言って頼み込んで、無理やり診察させたのに、「保険証とお金忘れた」と、言ってそのまま連絡が取れなくなった人。

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