エコ重視からライフスタイルとして定着へ~都心生活者が楽しむ高級自転車ライフ 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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エコ重視からライフスタイルとして定着へ~都心生活者が楽しむ高級自転車ライフ

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所狭しと高額なロードバイクが並ぶワイズロード新宿本館。完成車以外に各種パーツも多数取り揃えている

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世界一の生産量を誇る台湾の自転車メーカー「ジャイアント」。欧州ブランドに比べコストパフォーマンスが高いと日本のユーザーからも人気が高 い、この自転車は50万円超!

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本格的な自転車の世界はまだまだ間口が狭い。こういった店で、いろいろな角度から自転車の楽しさを知っていただきたい、自転車文化の裾野を広 げたい」(OVEマネージャーの内海さん)

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シマノのコンセプトストア「OVE」は自転車のある豊かな生活を提案している。カフェスペースではオーガニック食材を使った体に優しい食事を 堪能できる

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【集中連載】アベノミクス効果で伸びる高額消費 今注目を集める高級品の新常識に迫る ~Vol.8 高級自転車~

 「アベノミクス」の影響もあり高額商品市場が活況を呈している。しかし、同じく高額商品が飛ぶように売れた80年代のバブル景気とは様子が違い、ただ「高いもの」ではなく、付加価値を兼ね備えたプレミアムな商品が選ばれているという。今、なぜこの商品が売れているのか。本連載では、高額商品市場から見えてくる消費者のインサイドに迫る――。

* * *
 昨今の健康ブームで着実に注目を集めている自転車。週末の趣味やエクササイズ目的で自転車に乗るユーザーから、自転車通勤をする「ツーキニスト」も年々増加している。彼らが乗る自転車はいわゆる“ママチャリ”ではなく、車体が軽くてスピードの出る「クロスバイク」や、本格レース仕様のロードバイクなどスポーツサイクルだ。ママチャリは1台1万円以下でも買えるが、ロードバイクは1台数十万円もするような“高級車”。昨年、高級自動車ブランドの「レクサス」が100万円する限定自転車を販売したことが話題となったが、実際に都内では100万円以上の超高級自転車に乗る人も少なくない。
 
 日本最大級のスポーツサイクル専門店「Y’s Road(ワイズロード)」新宿本館の那須信一店長は、活気づく自転車市場を次のように見ている。

「東日本大震災直後の帰宅難民問題をきっかけに通勤用として7万~10万円のクロスバイクを乗り始める方が多かった。それから2年余りが経過し、もっと速い自転車が欲しいというお客様が最近は増えている。そういう方は、より高い価格帯のロードバイクを求める傾向がある。一度、自転車に乗る楽しさを知った方が、より深くのめり込むという流れです。20代の方ですと10万~20万円の価格帯のもの、30代、40代の方には15万~25万円の商品がよく売れています。お客様からよく耳にするのは、『(高額の自転車を買う際に)家族の了承を得やすくなった』との声。健康のためなら、少々高くても……という世間のコンセンサスも、ロードバイク市場のハードルを下げているのかもしれません」
 
 事実、日本自転車産業振興協会によると、国内における自転車の生産台数は年々減少傾向にあるものの、1台あたりの単価は逆に上昇傾向が続いている。30代、40代以上の「ゆとりのある世代」が自転車市場に多く参入していることも大きい。

 江戸川区に住む男性会社員のSさん(34歳)は自転車通勤をきっかけに“高級自転車”にハマったひとりだ。今や通勤だけでなく、週末には海や山に100キロから200キロのロングライドをするほどヘビーユーザーとなっている。ちなみに、Sさんが自転車に投資した金額はこれまでに140万円以上。なにがSさんをそこまで夢中にさせたのか。

「乗る楽しさ、メカニック的な楽しさ、それぞれあるのが自転車の面白いところです。スポーツでもあり、オタク的欲望も満たすことができる。もともと凝り性というのもありますが、パーツやギアにこだわりはじめると止まりません(苦笑)。自転車はかけた金額だけ高性能になるので、どんどん買い換えてしまいます。今乗っている自転車は3台。スピードを出したい時、街乗り用、山(坂)上り用、それぞれ用途に合わせて乗り分けています。健全な趣味ですから妻も理解は示してくれています」(Sさん)

●自転車に乗る“文化”を根付かせるために

 大阪・堺に本社を構えるアウトドアスポーツ企業「株式会社 シマノ」は、自転車に装着されるパーツメーカーとして世界最大のシェアを誇る。日本での自転車ブームのみならず、新興国でのスポーツサイクルの売上も好調で、今年も過去最高益を更新する見込みだ。

 そんな同社が東京・南青山に「OVE」というコンセプトショップを構えていることはあまり知られていない。贅沢に木材を使ったウッディな内装。暖色系の優しい照明。店内には何台か自転車は飾られているが、自転車のモデルルームといった様子はまったくない。オーガニック食材を使った健康的な食事を提供するカフェスペース。そして、その傍らには陶芸作家の作った器や特別な土で作られた土鍋、自然由来の調味料、はたまた環境に極めて優しい特別な洗剤……等々、こだわりを感じさせるお洒落な生活雑貨が販売されている。いずれも安くはない商品ばかりだ。なぜ、自転車パーツメーカーであるシマノがこのようなショップを運営しているのか。

 同店のマネージャーを務める内海潤氏はその狙いをこう説明する。

「シマノには“ある苦い経験”があります。90年代、日本ではマウンテンバイクブームが起こりました。あの当時はブームに乗り、モノを作れば売れる時代でした。しかしブームは去り、商品がまったく売れなくなりました。結局、一過性のブームで終わったわけです。社長は、商品を売るだけではなく、自転車に乗る“文化”を根付かせないと続かないと敗因を分析しました。その反省をもとに、自転車のある豊かな生活を皆さまに知っていただこうと2006年から『ライフクリエーションスペース』というコンセプトで、この店を始めました。生活を豊かにするもの、文化的な生活を送るために必要なものにはお金を出そうという方が増えています。自転車をもっと生活に密着したもの、それこそ自転車のあるライフスタイルを根付かせるには、いろいろなアプローチを取る必要がある。その一つとして、この店があるのです」

 自転車のある生活が“文化”として根付くにはまだ時間がかかりそうだが、世の中に少しずつ変化の兆しはある。アパレルメーカーのオンワードホールディングスは、今春、生活提案型の大型店を出店する。同社は昨年2月、自転車専門店「サクラ」を買収しており、「自転車のある暮らし」をテーマにした商品展開に乗り出す。全国で12店舗を展開するサクラは、豊かなライフスタイルの一つとして自転車を中心にした生活を提案してきた。このファション性の高い自転車を扱うサクラを傘下に収めることで、自転車を中心とした“居心地のいい暮らし”をファッションと連動させて打ち出す構えだ。


●新規専門店も続々オープン 高速道路を封鎖しての大会も

 ファッションや美容との関連が高い自転車は、女性の需要も期待されている。ミヤタサイクルの「メリダ」ブランドは2011年10月から、女性向けスポーツバイク「Juliet」を本格スタートさせた。女性好みのデザインに加え、小さな手に合わせたハンドル、広い座面のサドルなど、日本人女性の体に合わせて車体をアレンジしている。

 また、大阪の御堂筋沿いに2012年3月にオープンした「リブ/ジャイアント大阪」は、世界最大の台湾自転車メーカー、ジャイアントによる初の女性向け店舗だ。小柄な女性用に開発されたスポーツ車やファッションをそろえる。

 大阪市内では特に高級自転車を扱う店が相次いでオープンしており、中央区に昨年10月にオープンした「ベックオン」は、ネット販売を専門に手がける「ワールドサイクル」が出店した初の実店舗。店内で目を引くのは、フレームだけで1台147万円というカナダ・サーヴェロ社が手がけた高級車。軽い炭素繊維を使い、熟練職人が手仕上げした操作性、耐久性に優れた傑作で、ハンドルや変速機などを組み込み完成させると220万円にもなる。

 そんな盛り上がりを受けて、ジャイアントは今、日本に自転車文化を根付かせる試みを始めている。2012年4月には愛媛県今治市の今治駅構内に「ジャイアントストア今治」をオープンした。瀬戸内の「しまなみ海道」を世界に誇るべき“サイクリングの聖地”として国内外に広めたいとの思いから、国内のジャイアントストアとしては初めてのレンタサイクルサービスを提供している。貸出用として、ジャイアントの最新モデルを車種、サイズともに豊富に用意し、男女別シャワールーム、ラウンジを設置し、ガイドツアーの実施を行うなど本腰を入れた取り組みだ。

 愛媛県は昨年、しまなみ海道を自転車で走る「サイクリングしまなみ2013」を10月に開き、全国から約2500人の参加者を集めた。高速道路本線を封鎖したサイクリング大会は全国初で、海外からの参加者にも「眺めがいい」と好評を得た。今年10月にはジャイアントも協力し、1万人規模の国際大会の開催を目指している。

 各地で開催されるこのようなサイクリング大会やロードレースは、健康志向を背景にしたマラソン大会ブーム同様、都心在住者が多く、そのほとんどが高級自転車で参加するという。エコや健康志向、災害対応を背景に人気が高まった自転車だが、そのままライフスタイルや文化として定着すれば、今後、自転車の高級車志向にも一段と拍車がかかりそうだ。


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