●Aの休職中、社員の業務過多で退職希望続出の事態に!

 あれから半年が経過した。しかし、Aが復職する様子はなかった。この頃、甲社では取引先との大口契約が次々と決まり、ますます業務過多になっていった。営業課では、Aの業務を他の社員が肩代わりして行っていたが、それもすでに限界に達している。C社長としては自分が採用した手前もあり、Aの復職を待っていたかったが、他の社員たちが納得しなかった。

「Aがいつ復職するかわからないし、もし復職したとしても、もうAと仕事は一緒にできません。クビにして新しい社員を入れてください。そうしなければ私が退職します。こんな忙しい状態、もうやっていられません」と営業課の若手リーダー格であるEは、辞表を出すと言わんばかりに訴えた。実績のあるEに今退職されては非常に困る。しかもEだけではない。Aの扱いに不満を抱いた数人の社員からも退職希望が出されていたのだ。まさに社内、特に営業課の雰囲気は最悪だった。

 困り果てたC社長はAに電話をかけ、「具合が良くなったら早く仕事に復帰してほしい」旨を伝えたところ、「私はB課長だけではなく、もう会社の皆さんとも会いたくありません。どうせ僕の悪口を言いたい放題しているんでしょ?同期から聞きましたよ。ヒドイですよね。私は一生懸命仕事をしていたのに……。会社が原因で病気になったんだから訴えてやりますよ」と拒否されてしまった。

●休職が長引くAの問題や他の社員の不満にどのような対処・対策を講じたか?

 さて、その後、C社長はどう対処しただろうか。C社長はD社労士からアドバイスされた前述の(1)~(4)までの対策を実行してとりあえず急場はしのいだが、Aの休職が長引いている関係で新たな問題を抱えてしまった。そこで改めてD社労士に相談した後、以下のような対処・対策を行った。

(1)社員の補充問題
 早急に営業課へ社員を補充する。長時間労働は労働基準法違反にあたるので気をつける。

(2)Aの処遇問題
 Aの処遇については冷静に対処する必要がある。なぜならAは社内での評判を同期から聞いてパニック状態になっている可能性があるからだ。

(3)新入社員対象の研修見直し
 特に若年層に多い「新型うつ」対策としてセルフケア研修を取り入れる。また、仕事の指示を受ける際の心構え、社内でのコミュニケーションの取り方等の研修期間を設ける。

(4)管理職対象のハラスメント研修の実施
 仕事の指示の出し方について、パワーハラスメントになるかどうか判断に迷うところがあるため、課長以上の管理職を対象に、ハラスメントに関する研修を実施する。

(5)新入社員に対する職務指導制度の見直し
 職務を遂行していく上での疑問点とか、困った場合の相談事がある場合、親子ぐらいの年齢差がある上司には話しにくいことがある。そこで入社3年~5年の若手先輩社員をつけ、業務のチェックやアドバイス等を行う「ブラザー・シスター制度」を導入することにした。兄弟姉妹のような密なコミュニケーションを図ることで新入社員は円滑に仕事を進められるようになり、指導係になった社員はリーダー力の向上にも繋がる。

(6)新入社員採用基準の見直し
「新入社員は『ただの石ころ』。これを『ピカピカに輝くダイヤモンド』にするのは社長の力量である」

 C社長はD社労士から言われた上記の言葉が、心に「グサリ」と突き刺さった。採用時から「ダイヤモンド」を探そうとするから失敗する。「石ころ」でも会社の貴重な戦力に磨き上げることは可能なのだ。甲社のような会社の規模からすると、それは社長の役目になるであろう。Aのトンデモ言動により他の社員にも悪影響を与えてしまったことに、C社長は猛省した。そして社員のため、会社の発展のためにも、この問題に向き合って社内改善に尽力し、良い職場環境作りに向け踏み出したところである。

 今回は「新人トラブル」について紹介したが、現在、社労士等が相談に乗る企業の悩みで増えているのが「問題社員」「部下を潰す上司」等に関するもの。本事例のように、周囲の迷惑も顧みず、無断欠勤をしたり、休職中に海外で遊んでいたり、あるいは奴隷のように部下を扱い、仕事で失敗したらネチネチと責め続け、部下を潰して退職に追い込んだりといった上司の話も耳にする。

 こうした問題ある社員や上司を切り捨てるだけでは解決につながらない。世間の事例を普段からよくリサーチし、同じことが職場で起きたらどう対処すべきかという共通認識を持っておくこと、そしていざトラブルが起きた時は適切に対処することが、企業関係者にとって重要なのである。今後、機会があれば、皆さんによりバラエティに富んだ事例をお届けしたいと思う。

※本稿は事実に基づいて構成していますが、社名や個人名は全て仮名です。