興行収入が180億円に迫り、歴代邦画ランキングで4位という記録的な大ヒットになった『君の名は。』

 その成功の社会的・歴史的な原因を、各方面から絶賛される異色の経済書『増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?』の著者が解説します。

●『君の名は。』と「異次元緩和」は、同じ理由で歓迎された?

「教授、もう観ました?『君の名は。』」

 絵玲奈はゼミが始まると早々に尋ねた。サブカルのネタを振って面白い話を引き出して面倒な勉強を妨害しようといういつもの作戦だ。

「もちろん、観ましたよ。でも、困りますね~、そういうネタを振られると」
絵玲奈の作戦は、見え見えだった。

「でも、なんだか今までお話しいただいた話と通じると思うんです。さすがに、こんなにヒットするなんて誰も思ってなかったわけですよね。それって、『進撃の巨人』と同じじゃないですか。もちろん、新海監督は『進撃の巨人』の諫山創さんと違って実績のある人だから全く同じってわけじゃないですけど」

「困りましたね。そういう話をされると思わずはなしたくなっちゃうじゃないですか……」

絵玲奈の狙いどおり、このネタはツボだったようだ、もうひと押しだと絵玲奈は確信した。

「なんだか、『進撃の巨人』の話と同じで、これも社会を映しているんじゃないかと思うと、不安で毎日寝られないんですよね~」
と“不安”というキーワードを入れて適当なことを言ってみた。

「……じゃあ、少しだけですよ」

 絵玲奈は“作戦成功”と心の中でガッツポーズをした。

「ちなみに、新海監督の初期の代表作の『ほしのこえ』って観ました?」

「いいえ、観てないです」

「25分の短編ですぐに観られるので、ぜひ。同じセカイ系の作品ですから」

「セカイ系?」

「セカイ系の説明は後でします。同じセカイ系の作品の『ほしのこえ』と『君の名は。』の決定的な違いはハッピーエンドなのかどうかという点です」

「そう!『君の名は。』はハッピーエンドってとこがいいですよね」

「ところがですね。『君の名は。』は、ハッピーエンドにするために、ストーリーの整合性が取れなくなっているんですよ。逆に言えば、ハッピーエンドにするためにストーリーの完成度を犠牲にしたといっていいと思います」

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