「たしかに!時間を行ったり来たりして、なんだかストーリーが最後よくわからなくなっちゃったんですよ。でも、物語を追っかけるというより、テンポよく進んでいく展開に楽しく乗せられていくって感じなので、言われるまでストーリーは気になりませんでした」

「そう、意味を深く考えなくてよくて、テンポよく進んでいく展開に楽しく乗せられていくというのが重要なポイントなのです。ストーリーやロジックが多少壊れていても、テンポやリズムよく脳に刺激的な内容を与えていくことが、商業的に成功するためのひとつの方法論で、それを効果的に行なった作品と言えるでしょう。ですから、専門家の人から作家性を排除した大衆迎合作だという批判がありますね」

「なるほど~」

「テンポやリズムよく脳に刺激的な内容を与えていくために、ラッドの音楽が果たしている役割も極めて大きいのです。ラッドの壮大なミュージッククリップじゃないかという人もいますね。ラッド自身がインタビューに答えていましたが、普通の映画音楽の作りとは違ったそうですからね」

「それってどういうことですか?」

「普通の映画音楽は、映像があってその尺にあわせなければならないという制約付きで作られるんですが、この作品は逆で、曲に合わせて映像の尺を変えているんだそうです。つまり、音楽優先の部分があるってことですね」

「へ~」

「さて、ここからが問題その1です。ストーリーやロジックが多少壊れていても、テンポやリズムよく脳に刺激的な内容を与えていくことがウケる傾向が近年どんどん強くなっているように思えるのですが、これって何が起きているんだと思いますか?」

「う~ん、要はストーリーみたいな全体像じゃなくて、単発的な刺激に引き寄せられていくってことですよね」

「そうです。これって実はネットの世界の拡大の功罪だと考えているんです」

「ネット、ですか?」

「日本ではとりわけスマホの影響がバカにできないように思うのです。最近は電車の中でも本や雑誌を読む人の数はめっきり減って、みんなスマホを覗いています。ネットからの情報に人々の情報源は移行しています。本などの長文を読み込んでいくことと、ネットで情報を拾うのとは、脳の使い方が異なるという説があるんですよね」

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