「マスコミを上手につかった小泉政権以来、国民にわかりやすい、ワンワードで脳に刺激的なスローガンが席巻する傾向があります。“郵政民営化”“刺客”とかですね。この手のワードがネットによって拡散することで、大衆扇動が起きやすくなっています。イスラム国もネットをつかったプロパガンダで多くの人を引きつけましたしね」

「たしかに」

「政治だけでなく、経済も同じように問題を抱えています。たとえば、黒田日銀総裁の金融政策も、“バズーカ”や“異次元緩和”などの脳に刺激的なワンワードが、その内容が精査されないまま、 “いかにも正しい”かのように一般の人たちに広められてしまいました」

「日銀の政策って、結局、失敗だったわけですよね。なのに、多くの人が煽られちゃった。そう考えると本当に怖いですね……」

「ですね。総括を行ない事実上の敗北宣言をしたものの、もはや後戻りできないことをしてしまったわけです。ずいぶんと罪深い話だと思いますが……」

●セカイ系が受け入れられる「ミクロの時代」

「次の問題に移りましょう。先ほど言いかけたセカイ系の話です。セカイ系というのは、『主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性の問題が、政府などの具体的な中間項を挟むことなく、“世界の危機”“この世の終わり”などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと』です」

「えーっと…どういう意味ですか?」

「たとえば『君の名は。』において、物語は瀧と三葉の小さなセカイを中心に展開するのですが、そのふたりの関係性に彗星の落下という“危機”が直結してくるというわけです」

「なるほど」

「では、ここに見て取れることを列挙してみましょう」

「もしかしたら未来に大きな危機があるかも……って、人々が潜在的に感じているということでしょうか?」

「そうですね。そういう潜在意識に働きかけるテーマであることは間違いないでしょう」

「じゃあ、これまで教えていただいたような“漠然とした不安”と同じ話ですね」

「だと思います。政府などに物語の中で言及されないことも、セカイ系である『君の名は。』の大きな特徴です。彗星が落ちてくるということ以外、危機は抽象的な要素が強く描かれており、人々が具体化できない、“なんらかの危機に対して持っている漠然とした不安心理”に訴えていると言えるでしょうね。他はどうですか?」

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