「つまり、あまりものを考えなくなっているってことですか?」

「ネットによって供給される情報量が膨大に増えて、玉石混合の情報を取捨選択することに脳が使われるようになり、情報の意味を深く掘り下げることに使われなくなる……そういう傾向が出ていると思います」

「長文を読むのに頭が耐えられなくなるってことですね」

「同じ情報量だとしても、狭く深くではなく、浅く広くになっていくわけです。そして、膨大な情報供給のなかで、いかに必要な情報を簡単にピックアップできるかという能力が重要になるので、そちらがどんどん発達してしまうということでしょうね。となると、情報の供給側もできるだけ短い言葉で脳に刺激を与えて、膨大な情報の中でいかに振り向いてもらうかがカギになってきます」

「なるほど。情報が手軽に手に入る反面、失ったものも大きいってことなんですね」

「そのとおりです。問題は、このようなネットの影響によって、政治・経済の分野が由々しき影響を受けていることです。というのは、政治・経済のような専門性の高いちゃんと考えないといけない分野においても、テンポよく脳に刺激のある短いフレーズがウケて、大衆から支持されてしまうからです。それが正しいかどうかは、よく精査されないままに」

「合っているか間違えているかわからなくても、同じ言葉をずっと言われ続けると、頭に残りますもんね。それって危ないことですよね」

「ですね。ネットは言葉の供給を無限にできる道具です。また、双方向であることも大きな問題を与えていると思います。つまり、実際には専門家でない人がいかにもわかったかのように政治・経済を語ることができてしまうからです。ですから意図的な大衆扇動が起きやすくなってしまっていると思います。

 米国の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーが、『国際秩序』という本の中で以下のような警告をしています。

“新テクノロジーの敷衍が、人間の管理や理解をはるかに超える紛争を引き起こすおそれがある。情報にアクセスし、伝達する新しい手法が、いまだかつてなかったほど世界を一体化させ、起きたことが世界中に撒き散らされる――その一方で、じっくりと考えることが妨げられ、指導者たちはスローガンで表現できるような形でただちに対応を表明するように要求される”」

「たしかに私たちの世代って、ほんとに本とか読まなくなってますからね。ものごとをじっくり考えるよりも、美味しそうな情報をネットから拾ってくるほうが手っ取り早くて、安直にそっちに走っちゃいます」

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