●報道されなかった三菱重工への「抜き打ち調査」

堀:2012年の事故発生後、エジソン社(電力会社SCE)と三菱重工は蒸気発生器の設計変更を発表しました。設計変更し、安全検査をクリアして、NRCが承認したら再稼働という流れでしたから、設計変更が完了した時点で、反対側の住民もいよいよ再稼働なのかと注視していました。

 そんなときNRC(米原子力規制委員会)が突然、神戸にある三菱重工の製造工場に抜き打ちで調査に入ったのです。その結果、定められた手順で安全検査を行っていないことを突き止めました。

広瀬:日本でNRCの動きはまったく報道されていません。本当ですか?

堀:三菱重工は、「確かに手順を飛ばした部分はあるが、安全管理上はまったく問題はない」と主張しました。それでもNRCはこれを問題視して、三菱重工の担当者とのすべてのやりとりをネットで公開しました。これによってサンオノフレ原発の廃炉が決定的になりました。SCEの親会社であるエジソン・インターナショナルは三菱重工に対し、検査や補修費用としてそれまでに1億ドル(当時のレートで約97億円)以上を請求していましたが、さらに廃炉に伴う損害賠償(約9300億円)を三菱重工に求めました。

広瀬:最終的に、廃炉という決断を誰が下したのですか?

堀:SCE(電力会社)です。修理して運転するより廃炉にしたほうが安いという判断でした。そういう判断を自分でできる電力会社はすごいと思います。

広瀬:日本で報道されたのは事故が起きたことと、廃炉になったことだけです。でも、いちばん重要な部分は、NRCが三菱重工に査察に入ったことですね。そんな経緯があったなんて全然知らなかった。

堀:これはビッグニュースですよね。しかし、日本では報道されていません。米国ではNRCが会見を開き、三菱重工とのやりとりをほとんどの局が報道していました。それなのに、日本では報道されない。でも今の私は、こうして事実を伝えられる自由な立場にいます。

●世界中から不信感を持たれる日本の原子力業界

堀:最近、日本の電力会社の取材をしています。電力会社のある幹部は「社内や資源エネルギー庁から、堀さんの取材を受けて大丈夫なのか、と言われましたが、情報公開するにはどうすればいいか迷っている部分もあるし、こうやって話をするところから始めたい」という人もいました。他の電力会社の幹部も「どうやったら市民社会と接続できるのかを考えたい」と言っていました。

広瀬:それはいつ頃の話ですか?

堀:今年の7月終わりくらいです。その理由は、諸外国の原子力業界から声があがっている、日本の原子力業界への不信感です。日本の原子力業界は、事故後の対応や情報公開のやり方を世界中から批判されています。

 今年4月、第48回原産(日本原子力産業協会)年次大会が東京で開催されました。ブラジル、中国、フランス、インドなどの原子力部門の代表から「日本は情報公開ができていない」「あらゆるステークホルダー(利害関係者)を集めた場をつくるべき」という声があがりました。中国の代表からは「内陸部に原発をつくりたいけれど黄河を汚してしまったらとんでもないことになる。住民の声を受けて沿岸部にしかつくっていない。住民の声を聞くのが大事なんだ」と。OECD(経済協力開発機構)の原子力部門のトップからは「福島の事故は人的な側面が大きい。いくらテクノロジーを向上させても人間がエラーを起こしたらうまくいかない。そこで“心理学的側面から安全を担保する専門部署”を新たに立ち上げた」などの発表がありました。日本は事故から4年経っても業界の体質は大きく変わっていないのが現状です。

広瀬:変わっていないどころか、原子力規制委員会は大事故が起こることを前提に川内原発を再稼動させたんですよ。地元民は「100%事故は起こらない」というから原発を誘致し運転を認めてきたのに、いまや「事故は起こる」といって動かしているのです。それが8月11日の川内原発再稼働という出来事です。だからトンデモナイことが始まったのです。

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