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真夜中のツイッターと、"マニア気質の誇り"

文・中島かずき

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 映画『告白』、アカデミー賞外国語部門のノミネートに残りませんでしたね。
 残念ですが、仕方ないです。僕などよりもがっかりしている関係者は、きっと大勢いると思いますしね。
 でも、66作品のうちの9本に選ばれたということは、胸を晴れると思うので、中島哲也監督にはこれからも、ああいう他の人には撮れない作品を撮っていって欲しいと思います。

 会社を辞めてからツイッターを始めています。
 これからは個人営業だし、宣伝のツールとしてもいいだろうと思い、ペンネームでやっています。
 仕事がらみで、ちょっと70年代の少女漫画のことをつぶやいたのですが、驚くくらいの反響がありました。会話の内容から考えて、それなりに年齢を経たいい大人達がよってたかって、あの作品がよかった、この作品が好きだったと夜中までツイートが続きました。
 いやあ、若い時好きだった物を語るというのは、みんな好きなんですよね。若干恥ずかしい部分もありますが、この歳になれば、それも含めて懐かしい気持ちになる。
 なかなか面白い体験をさせてもらいました。
 でもまあ、時間に余裕がある時じゃないとできませんね。〆切間際であれば、仕事をさぼっているのが一目瞭然ですから。

 少女漫画はそれほど詳しくありませんが、若い時はそれなりに読んでいました。だから、その時に話題になった作家さん達は、だいたいわかったのですが、それでも「あれ、あの漫画家が描いた作品名ってなんだっけ」となるときはある。
 昔は、本棚をひっくり返して、お目当ての本を引っ張り出してようやく確認出来たことが、今ではグーグルなどで簡単に検索出来てしまう。
 便利な時代になったものです。
 ただ、それでふと思ったことがあります。

 僕が若い頃は、そういう知識イコール個人の記憶でした。
 本なり映画なりテレビ番組なり自分が観たり読んだりした物を記憶し、必要な時にすぐに思い出す。それができてこそのマニアという、まあある種のプライドがあった気がします。
 どれだけ多くのことを覚えていられるかに一所懸命でした。特にテレビ番組などは、ビデオもない時代なので基本的には一期一会。記憶の補完は再放送に頼るしかない。今でも、その当時に好きだった物の方が記憶が鮮明なのは、あの頃何度も何度も記憶のリピートを行ったからでしょう。
 僕個人の経験ですが、多分、僕と同世代くらいだとうなずいてくれる人達は結構いると思います。
 マニア同士の会話って、程度の差こそあれ「俺これだけ知ってるぞ」バトルだったりしました。まだ「おたく」という言葉も広まっていない時代の話です。

 でも、今は個人の記憶はいらない。ネットで検索すれば、すぐに情報は手に入る。
 それは、集合知といえばそうかもしれません。
 ウィキペディアなど、とりあえずの知識のネタ元としては便利なものです。
 今のおたく達は、情報の整理もしない。ただ作品の享受しかしない等と、「近頃の若いもんは」的にまとめたくなる気分もあります。
 でも、そういうのは簡単だけど、それですませるのもなんか違うと思う自分もいます。
 むしろこれからは、膨大なデータベースの中から、自分が欲しい情報を選び出す能力のほうが、必要とされるのかもしれません。集合知があるのなら、それをうまく使うのに越したことはない。
 そう考えながらも、ただ、しゃにむに自分の中に知識を溜め込むことを誇りに感じていた当時のマニア気質ってもう必要ないのかなあと、少しさびしくなりもする。
 理性と感情が相反しているのですね。
 まだ、だからどうだと言えるものではないのですが、この当惑は時代の変わり目を目の当たりにして、呆然としているのかもしれないなあ、と考えたりもしました。
 いや、歳をとるってことがそういうことなだけかもしれませんが。


(更新 2011/1/27 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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