済美対星稜の死闘は、逆転サヨナラ満塁弾で決着がついた (c)朝日新聞社
済美対星稜の死闘は、逆転サヨナラ満塁弾で決着がついた (c)朝日新聞社
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 今年6月に行われたサッカーのワールドカップ。日本代表は優勝候補のベルギーを相手に後半に入って2点をリードしながら残り25分を守り切れずに8強を逃した。この結果に対しては、明確に逃げ切る意図の選手起用を行わなかった西野朗監督がワールドカップの大舞台で冷静な判断ができなかったと見る意見も多い。このように大舞台では監督の判断が勝負を大きく左右することはよくあるが、今年の夏の甲子園でも同様である。あっという間に試合が終わってしまい、自分の思ったような判断ができなかったと話す指導者も少なくない。そこで今回は、今大会のこれまでの試合で光った采配、疑問に感じた采配をピックアップして紹介したいと思う。

 まずは光った采配。1回戦で最も采配が決まったと感じたのは近江(滋賀)の継投である。相手は優勝候補の一角と見られていた智弁和歌山(和歌山)だったが、その強力打線を相手に4人の投手の中でも地方大会で最も登板機会の少なかった松岡裕樹を起用したのだ。松岡はサイド気味のスリークオーター右腕。130キロ台後半のストレートは球速以上のキレがあり、独特の角度が持ち味の投手である。松岡は2回を投げて3安打2失点でマウンドを降りたものの、智弁和歌山の中軸にはヒットを許さず3奪三振もマークした。そして何よりもそのボールの軌道を智弁和歌山打線に印象付けたことが大きい。3回からはカーブとチェンジアップの緩い変化球が持ち味のサウスポーの林優樹が好投して逆転を呼び込む形となったが、思い切った先発起用がなければ、この展開は生まれなかっただろう。近江の多賀章仁監督も試合後の談話で大博打だったと語ったが、最初から技巧派投手で相手をかわそうとするのではなく、実績は少なくてもストレートを印象付けられる投手を選んだことが勝利に繋がった大きな要因と言えるだろう。近江は2回戦でも前橋育英(群馬)を相手に継投で接戦を制しており、2001年の準優勝以来の躍進を感じさせる戦いぶりを見せている。

 惜しくも敗れたものの思い切った采配で存在感を見せたのが、一昨年の優勝校である作新学院(栃木)だ。8年連続出場となるが、今年のチームは昨年秋の関東大会では東海大相模に1対12でコールド負けを喫し、夏の栃木大会でも接戦を何とか勝ち進んできており、前評判は決して高いものではなかった。そして、1回戦の相手は優勝候補の大本命である大阪桐蔭(北大阪)。小針崇宏監督は試合開始前から普段通り戦っていては勝てないと発言した通り、この1戦に思い切った起用で挑んだ。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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