記念すべき第100回全国高校野球選手権記念大会も順調に試合が消化され、今年の栄冠を掴むチームも随分と絞られてきたが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「ゲームセット寸前からのどんでん返し編」だ。
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誰もが「これでゲームセット」と思った直後、まさかのどんでん返しが待っていたのが、1987年の1回戦、東海大山形vs徳山。
甲子園初出場の徳山は、0対0の7回1死、4番・靏本浩司の左翼への大飛球がレフト・柴崎剛のグラブをかすめてスタンドに入るラッキーな本塁打で1点を先制。1対0とリードして最終回を迎えた。
好投手・温品浩に8回までわずか3安打に抑えられていた東海大山形は、9回表1死から宝角泰章が左中間に三塁打を放つが、畑地久幸は二ゴロで2死。4番・渋谷俊治も1ボールからの2球目をマウンドの温品の前に転がした。素早くグラブを差し出して打球を処理した温品が一塁に送球する。これでスリーアウト&ゲームセットと思われた。
ところが、勝利を意識して余計な力が入ったのか、ボールはファースト・藤本真一の頭上を遥かに超える大悪投になり、ファウルグラウンドを転々。この間に三塁走者・宝角が同点のホームを踏み、打った渋谷も二塁へ。
ネクストサークルで戦況を見守っていた5番・赤木雄一は、渋谷が投ゴロを転がした瞬間、敗戦を覚悟して「思わず涙がこみ上げてきた」そうだが、九死に一生を得て、なおも2死二塁のチャンスに「とにかくボールを前に飛ばそう」と気合十分で打席に入った。
そして、1ボールからの温品の2球目を振り抜くと、打球は中前に抜け、二塁から渋谷がホームイン。土壇場で2対1と逆転した。
その裏、徳山も1死から3番・藤本が右越え三塁打を放ち、一打同点と執念を見せる。藤本は次打者・靏本の右飛で本塁を狙ったが、この試合のラッキーボーイになったライト・渋谷の好返球で本塁タッチアウト。併殺でゲームセットとなった。
2年前の夏、PL学園に29点を奪われた屈辱をバネに精進を重ねてきた東海大山形・滝公男監督は「甲子園ではこんなこともあるのかと思った。拾った勝利ですが、練習のたまものです」と奇跡的な逆転勝利に興奮覚めやらない様子。春夏併せて出場5度目での甲子園初勝利でもあった。
一方、99.9パーセント勝利を手中にしながら、ひとつのエラーに泣いた徳山・関雅明監督は「勝利を握ったつもりだったのに、ふと気がついたら、手の中になかった。温品がベストに近い投球をしていたので、勝ちたかったが……」と信じられないような表情だった。