




長い時間をともに過ごして肌が黒ずんでしまったり、手足が取れてしまったりしたぬいぐるみを“患者”として受け入れ、再び家族の元へ送り届ける「ぬいぐるみ病院」(大阪府豊中市)。患者の“診察”や“治療”だけでなく、エステや添い寝といった手厚いサービスが人気を集め、全国から多くの患者が訪れる。2015年6月の開院以来、18年6月までに約4000体を治療した。
病院を運営する「もふもふ会」理事長、堀口こみちさんによると、入院を希望する患者の家族の多くは、40~50代のカップルや夫婦だという。ぬいぐるみの年齢は30~40代が多い。
ぬいぐるみ病院では、入院の際、家族に患者の症状のほか、出合った場所や思い出などについても聞き取りをする。「ご家族にとっての存在は?」と尋ねると、「心を持った家族」「相棒」「大切な友だち」「ムードメーカー」「癒やし」「宝物」「かけがえのない存在」「恩人」などと返ってくる。
患者との思い出もさまざまだ。ほほ笑ましいものを紹介すると、
「実家から出て1人暮らしする時も、この子だけは連れてきました」
「夫婦で出かける時はいつも一緒」
「部活の大会で全国各地に一緒に行ってくれた」
「小さい時に姉とけんかして家出した時も、ついてきてくれました」
「会社に泊まった時に枕になってくれた」
こんなエピソードもある。
「陣痛から入院、出産まで、ずっと一緒でした」
「交通事故の時、この子のおかげで娘が無傷でした」
「大震災の時、一緒にいてくれた」
「子どもができない時、そばにいてくれた」
「仕事で落ち込んでいた時、実家から駆け付けてくれた」
堀口さんから患者と家族の物語を聞いていると、いかにぬいぐるみが、その家族にとって大切な存在かが伝わってくる。「患者様は、ご家族にとっては子どもと同じで生活の一部。ご家族の愛情は深く、退院、帰宅されるとパーティーを開いて喜んでいただいています」(堀口さん)
そんな中、堀口さんがずっとひっかかっていることがある。
ある時、猫のぬいぐるみを連れた女性が病院を訪れた。入院の手続きをしようとしても、涙を流してぬいぐるみを抱いたまま離れられない。そのまま約2時間たち、結局、女性は患者を入院させられずに帰っていった。堀口さんは泣いている様子を見て、非常に悲しく感じたという。