またプロ野球黎明期の19世紀末から20世紀にかけて活躍したウィリアム・ホイという選手は、子供の頃の病気で難聴となってしまったが、そのハンディを克服して通算2000安打以上を記録している。彼に対して審判が判定を動作で伝えたことが現在の審判のジェスチャーにつながっているとする説や、味方と意思疎通するための決まりごとがサイン誕生のきっかけだとする説もある伝説の選手だ。

 ハンディと言っても身体的なものだけではなく、冒頭のエルアーバーのような発達障害や精神的な障害を抱えながらプレーする選手も多い。現役ではアストロズの強打者ジョージ・スプリンガーが吃音症として知られているが、彼は子供の頃のいじめにも折れることなく成長し、同じ症状に悩む人たちへ勇気を与えている。

 メジャー屈指の右腕として現在はダイヤモンドバックスで活躍するザック・グリンキーは、ロイヤルズ時代の2006年に社会不安障害を発症。チーム離脱を余儀なくされ、一時は引退も考えたという。だがグリンキーはこのシーズンの終盤にはメジャーへ復帰。2009年にはサイ・ヤング賞を獲得するなど、昨季までに通算172勝を挙げている。

 またメジャーリーガーの中にはADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断を受けている選手たちも多い。オリオールズで2度の本塁打王に輝いた大砲クリス・デービスや、フィリーズやレッドソックスで外野手として活躍してゴールドグラブ賞を4回も取ったシェーン・ビクトリノなどがそうだという。

 彼らのような障害を克服して大成した選手たちの多くに共通しているのは、ハンディキャップを隠すことなくプレーすることで同様の障害を抱える人たちの支えとなっていること。また実際に支援活動や啓蒙活動を積極的に行っていることだ。その背景には、障害を個性と考えて彼らを支えた家族や周囲の人々、そして社会的なサポートがあったことも忘れてはならない。いつの日か、彼らの活躍に刺激を受けたハンディキャップを抱える選手たちの中から新たなメジャーリーガーがきっと誕生することだろう。(文・杉山貴宏)