「正直言ってね、むしろ海外の人のほうがちゃんと見ている、と言えるでしょうね(笑い)。こういう場所で僕の映画をみて取材に来てくれる人は、継続して僕の映画を見てくれているから、前の作品からの関連で出てくる質問が圧倒的に多いです。全部の観客がそうあってほしい、と思うのは高望みかもしれませんが。日本で質疑応答をやって出てくる質問に比べると、密度が圧倒的に濃いですね。むしろ苦労はないですね」
――監督は繰り返し同じ俳優さんを起用しておられます。今回初枝さん役を演じておられる樹木希林さん起用の理由を教えて下さい。
「あの年代の役者さんで、あれだけ人間の毒とか業とか残酷なところとか汚れたところとかをキチンと表現できると言うのは彼女が一番上手でしょう。あと脚本を読んでもらったときに、読み込みが圧倒的に深いので、自分の脚本の弱点を突いてくれるんです。自分以外の役についても、納得ができない点などの疑問点がちゃんと返って来るので、それを書き直して投げ返す作業を希林さんとやるんですよ。それがいいんです」
――こうやって海外で活躍されてこられて、海外の映画業界に触れてみて、日本映画業界の未来について思うところは?スマホなどが若い世代の心を奪う今日、かつて日本がそうであったような映画大国になる希望はいかに?
「日本はもはや昔のような映画大国になるとは思っていません。それは幻想だと思います。人口が減っていきますから、映画業界はもっと衰退していくと思います。むしろそのことに気が付かないふりをしているから問題だと思います。これから国内市場が縮小していくのだから、そのことを見越してどういう風に、例えば国際映画市場の中で日本の位置をどう確保していくかという方にシフトしなければいけないでしょう」
――邦画の質を上げる対策とは何でしょうか。作家性の軽視という傾向があると思いますか?
「その通りですけれど、優れた作家性を持った監督は随分出てきていると思います。ところが一部はそれをむしろ邪魔なものだと思っているようですね。国内マーケットで成功しているから無理して海外にいかなくてもいいって思っている方もいる。その状況で外に意識を、と言っても無理じゃないですかね。若手監督の海外進出を支援しているところは、どこにもないから。クールジャパンなどの予算でいくらでもできるはずなのに……」
――そこを是枝監督が音頭をとって何とか?
「現在のように文化を政治利用の道具としか考えていないような環境では、監督や作品に頑張ってもらうには限界があると思います。今日の午後、中国のパビリオンに行って、マスタークラスというのをジャ・ジャンクー(中国の映画監督)と一緒にやったんです。中国は若手をカンヌ映画祭に20人くらい呼んでいて、ずっと映画祭中パビリオンで、マスタークラスやったりイベントやったり特集やったり頑張っている。ああいった状況を見て、自分の国が(映画界のために)何もやっていないという危機感を感じました。皆が危機感を感じるべきだし、気が付いていないふりをするのはもう止めにした方がいいと思います」 (取材と文:高野裕子)