予想外の会話展開に肩すかしを食った気分だった。いくらなんでも、これだけのやりとりで英語力がわかるはずもない。ここで初めて相手の顔を見ると、相手をするのも避けたいぐらいに、いかにも怪しい雰囲気をまとった中年男性だった。小太りでメガネ。髪の毛はボサボサ。ジャケットもヨレヨレである。

 このままではやられっぱなしな感じがしたので、こちらも負けじと国籍質問をやり返すことにした。

「Thank you. How about you?」(ありがとう。それで、あなたはなに人なんですか?)

「I'm an Italian.」(イタリア人だよ)

「What do you want?」(それで、なんの用ですか?)

「Your English is very good! Could you talk with me?」(あなたの英語は素晴らしい。私と一緒に話しましょう)

「What do you mean? I do not know what to do.」(何言ってるの? どうしたらいいかわかりませんよ)

 私の経験では、観光地のように不特定多数の外国人が集まる場所で親切そうに話しかけてくる人は、高確率で詐欺師というふうに思っている。これはあくまで経験則ではあるのだが、逆の立場で考えてもらえばすぐにわかると思う。たとえば、あなたが来日旅行者と銀座や新宿の路上で出会ったときに、なんの目的もなく、話しかけることがあるだろうか?

 この男は目的があって話しかけている可能性が高いのだ。

「Your English is very good!」(あなたの英語は本当に素晴らしいです)

 ことあるごとにこれを多用してくるので、言われるたびにイラッとするようになってきた。

「Is that so? Thank you very much. But what do you want?」(そうですか。ありがとうございます。何がしたいんですか?)

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