もちろん、「グッド・ヴァイブレイションズ」を聴いた瞬間の衝撃も受け止めつつ、ということだ。僕は、年齢的には可能だったのに、ポールやブライアンの世界にはほとんど入り込まなかった中途半端なロック・ファンなのでこれ以上は書かないが、ともかく、情報が瞬時に伝わることのなかったあの時代に、大西洋をはさんでこんなにスリリングなやり取りがトップ・アーティストのあいだで行なわれていたのである。
「グッド・ヴァイブレイションズ」のレコーディングには、ドラムスのハル・ブレイン、キーボードのラリー・ネクテルなど当時のロサンゼルスの音楽界を支えていた凄腕のスタジオ・ミュージシャンが何人も参加している。ヴォーカル・パート、トレードマークのハーモニーは、もちろんメンバー全員によるものだが、すでに書いた通り、「せえの」で録音するのが当たり前という常識を打ち破り、彼らは、ロック・バンドの創作の可能性を大きく広げることとなったのだ。
10年前の2008年、ロンドンのアビィロード・スタジオを訪ねる機会があった。ビートルズのホームグラウンドだったスタジオを舞台にした英国制作の音楽番組『ライヴ・フロム・アビィロード』が、当時、日本でも放送されていて、そのスタッフの一人として貴重な機会を与えられたのだった。しかもそれは、ブライアン・ウィルソンの回の収録が終わった直後。スタジオにはまだ、ビートルズが愛用した楽器も使ったセットがそのまま残されていて、「ポールやブライアンの世界にはほとんど入り込まなかった」などと書いておいて、やや矛盾する話だが、やはりグッときてしまった。(音楽ライター・大友博)