兵庫球団がこれまでの歴史や教育提携の内容について説明している「スカウティング・ブック」と、就職説明会開催のため企業側に配布した「ワークドラフト2017」
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 野球界の現状に対する“アンチテーゼ”とも言える画期的なアイデアが発表された。それは「甲子園を目指さない高校野球部」。今回は「前編」「中編」に引き続き、「後編」をお送りする。

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 2014年にスタートした芦屋学園高の「甲子園を目指さない野球部」に、初年度は14人の選手が入ってきた。

「芦屋学園スポーツモダニズムプロジェクト(ASMP)」と名付けた芦屋学園のスポーツ強化策では、プロとアマの融合を目指していた。しかしこのプロジェクトは、学園内の諸問題が絡んだ影響で頓挫。野球部の募集は4年間、総勢48人でストップすることになり、2018年3月の卒業生を最後に、芦屋学園高の「甲子園を目指さない野球部」は活動を終えることになった。

 それでも兵庫球団の高下沢(こうげ・たく)は「どうしても、このプランをやりたかった。拡大し切れなかった歯がゆさもあったので、時間を置いて、またやるつもりだったんです」という。

 「甲子園を目指さない野球部」が全国にひとつ、またひとつと生まれていけば、これらのチームだけで年間を通したリーグ戦もできる。夏休みには、米国、欧州、台湾、韓国など、野球の試合を目的とした海外遠征に出て、サマーリーグなどに参戦したりすることもできれば、プロ・アマ規定にも抵触しないため、独立リーグを交え、サッカーの天皇杯のようなトーナメント戦も可能になる。その輪は必ず広げることができるはずだ。

 だから、決して諦めない。そう決意していた高下のもとに思わぬ情報が飛び込んできたのは、今年8月のことだった。

 兵庫球団のスタッフが営業活動の一環で訪れた大阪の通信制高校、向陽台高に「甲子園を目指さない野球部」のコンセプトを説明したところ、「何か一緒にやれないか」という前向きな回答があったのだ。

 向陽台高の通信制は、サッカーJリーグ・G大阪のユースチームの選手たちが高等教育を受けながらプロ活動をするという両立の実績があった。同校の出身者には、日本代表として3度のワールドカップ(W杯)出場経験のある稲本潤一(札幌)、高2でG大阪のトップチームと契約して日本代表経験もある宇佐美貴史(デュッセルドルフ/ドイツ)、同じく在学中にG大阪のトップチームと契約した堂安律(フローニンゲン/オランダ)など、現在も一線級で活躍する選手たちも多い。

 同校はプロの活動を優先するための単なる腰掛けではなく、個性に合わせた教育カリキュラムを作り、3年間をかけてじっくりと取り組んでいくという方針を明確に打ち出している。兵庫球団との教育提携へのきっかけも、本拠地の三田市で地域貢献やボランティア活動などを積極的に、長年にわたって展開している球団の姿勢を評価し、高校生たちにもこうした活動への理解を深めさせ、積極的に行動し、地域にコミットさせていきたいという狙いが一致したところにあった。一方でプロを目指し、長期的なスパンで野球に取り組みたいという個人の夢や希望をバックアップできるシステムが整備されていたことで、高下の目指していた「甲子園を目指さない野球部」のコンセプトにもマッチしたというわけだ。

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