リン監督:私は、俳優としてもフィルムメーカーとしても、彼のファンだったんです。その彼の両面を使えるということは、本当にラッキーでした。サイモンという人間は本当の意味での天才で、さらに人間としても素晴らしい人なんです。サイモンとダグ(共同脚本のダグ・ユング)と私とで、いい意味でのケンカをしながら作品をつくり上げることができました。

――作品では主人公たちが乗る宇宙船・USSエンタープライズ号が大破してしまうシーンがありましたが……このシーンはどんな思いで撮影したんでしょうか。

リン監督:これは私にとっても動揺するというか、感情的になってしまうシーンではあったんです。自分自身も、スター・トレックのエンタープライズ号を見ながら育ってきたので。でも、このシリーズは50年続いてきたので、ここはスター・トレックのテーマや哲学を再構築するのにいい時期なんじゃないかと思ったんですね。そのために一番いいのは、クルーをバラバラにすることだと思いました。そしてそれをするには、クルーをひとつにつなげているエンタープライズ号を壊すことだと思い、壊滅させました。ただ、それは非常に重いことだと受け止めています。でも、それぞれのクルーがそれぞれの道のりで成長していくのを見ることで、観ている人が「だから私はスタートレックが好きなんだな」という気持ちを、再び肯定できるようになればいいなと思っています。

――リン監督は今作には脚本段階から携わっていたということですか?

リン監督:J・Jから電話をもらったときに、何もできてなかったんですね。電話をもらってすぐにロンドンに発って、サイモンとダグに会ったんです。そこで今言ったような、再構築するようなアイディアを出しました。これは決していい方法ではないとは思うんですが、そこで準備をしながら脚本を書き進めていったんです。同時進行だったわけですね。でもそうすることで、みんなすごく絆が強くなったと思います。みんなには、すごくいろんな意味で制作はタイトだとは思うけど、それに不平を言うのじゃなくて、(同時進行することで)この映画を有機的な、まるで自分たちと同じように生きていて、呼吸をしているようにしていこう、ということを言いました。

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