手あかのついた言いまわしではあるが、「好事魔多し」とは、まさにこのような状況を指すのだろうか。
「休養もとれたので、コンディションは良い」「自信もついてきている」「トレーニングで追い込んでこられた」──楽天ジャパンオープンに臨んだ錦織圭は、大会前から好調さと自信を口にしていた。現に2回戦でも最高の立ち上がりを見せていたが、試合中に襲われた突発的なケガによって、途中棄権を余儀なくされた。
2回戦の対戦相手のJ・ソウザは、過去の対戦こそないものの、ジュニア時代からプレーを見る機会も多かった同期選手。穴の少ないストロークと軽快なフットワークを軸に攻撃テニスを身上とする、言ってみれば、錦織と似たタイプのプレーヤーであった。
そのソウザは世界5位の同期相手に、ペース配分など端から念頭にないかのように、試合開始直後から全力で立ち向かってきた。対する錦織もソウザのハイペースプレーに対応すべく、コート上で躍動する。バックハンドの鋭いストロークを広角に打ち分けて、相手を走らせてはオープンスペースにウイナーを叩き込んだ。逆に相手がイニシアチブを握る打ち合いでも、快足を飛ばしてボールをしぶとく打ち返し、やがては引き潮が満ち潮になるかのようにラリーの主導権を奪い取る。2ゲームを連取して迎えた第3ゲームでは、4度繰り返したデュースの末に、最後はドロップショットからロブにつなげる創造性溢れるプレーでブレーク。瞬く間にリードを3-0と広げた。
ところがこの直後、錦織はベンチにトレーナーを呼びよせる。第3ゲームの最後のポイント中に、左臀部に走った痛みが理由であった。コート上で治療を受け、そのままプレーを続けるが痛みが消える気配はない。最終的にはゲームカウント4-3となったところで、自ら棄権を申し出た。
「急に来た痛みなので、まだ受け止められていない」
試合後に錦織は、茫然として語る。その後に受けた医師の診断結果は、左臀部の筋肉の軽度の肉離れ。「最低10日間の休養と十分なリハビリが必要」であり、出場を予定していた来週の上海マスターズ欠場も決断した。