寝ている人と人の間のスペースを見つけ、体を横たえる。じゅうたんが敷いてあるから、寝心地がいい。隣で寝ていたインド系の男と目が合った。
「旅行者か。珍しいな。俺はこの空港の清掃員。しばらく仮眠して朝のバスで帰宅するんだ」
「寝てもいいんですよね、ここ」
「大丈夫。朝方、冷えるから気をつけろよ。おやすみ」
以来、月に2回はここで寝ている。
しかしチャンギ空港はしっかり管理されている。必ず午前3時頃に、見まわりの警察に起こされる。だが、パスポートを見せれば大丈夫だ。見ていると、彼らは旅行者だけパスポートの提示を求めている。毎日、ここで眠る職員はわかっているらしい。
インド系の男がいうように、たしかに朝方冷える。人が減り、その分、冷房の効きが強くなるらしい。常連は寝袋を用意している。どうしたら、冷気を防ぐことができるか。いまのところの課題だ。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など