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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「週刊朝日休刊」で思うこと。

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 今週も皆様にご愛読頂いている週刊朝日が、今年の5月をもって休刊となるとの発表が先頃ありました。私もこうして連載をさせてもらって早6年になるわけですが、雑誌をはじめとする紙媒体市場の状況については詳しくありません。しかし文字にしろ音楽にしろ、私がずっと慣れ親しんできたアナログメディアが、もはや現代の主流でないことは日々痛感しています。

 私が生業にしている芸能も、いわゆる「大衆」へ無差別に自分を売る仕事ですが、あらゆる分野でデジタル化とニーズの細分化が進んだことで、その「大衆」という概念自体が薄らいでいる昨今、「なんとなく選んで、なんとなく開いたページが面白かった」的な狙いでは、なかなか勝負できないのが現実です。確かに「買って(使って・読んで・観て・聴いて・食べて・着て・乗って)みるまで何が出るかは分からない」なんて曖昧な場面は、昔に比べずっと少なくなりましたし、極力お金と時間と体力を使わずに目的地へ到達することも簡単になりました。

 私のようなアナログで理屈っぽい人間にとって、この「レス・フィジカル」な世の中は、往々にして希薄で情緒のないものに感じる一方で、ひとたび克服してしまえば、これから年老いていくばかりの境涯において、実はとても生き易い世界でもあるのです。そしてデジタライズされたからこそ見えてくる曖昧で人間的なグラデーションは、老眼鏡をかけなくても充分に刺激的であることも知っています。

 例えば、この連載。週刊朝日の定形ページレイアウト(縦書き・1ページにつき5段)という絶対的制約の中で、読者がどのように読み進めていくかをデザインしながら毎週書いています。元来私は日本語も英語も「横書き」の文章を順番通りに読み進めていくのが苦手で、どんな書物も無意識に右から左へ読んでいこうとしてしまう癖があります。ラジオやテレビの原稿も、すべて縦書きに打ち直して頂いているほどです。なので、私は英語を普通に話せて書けて聞き取れますが、読むのだけはアホみたいに時間がかかります。

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