最初のエンブレムについてベルギーのシアターのマークとの類似性が話題になった時点で、すぐに当事者同士で協議するべきであったと思うが、なぜそうしなかったのかは疑問が残る。しかし、そこで丸く収まっていたら、別の事例を知ることができなかったとすると大変複雑な気持ちだ。希望があるとすれば、この件をきっかけに著作権についてのモラルが向上し、無名の学生デザイナーなどが作品を大人たちに横取りされ泣き寝入りするような事例が減るかもしれないということだ。実は学生からのこのような訴えは、枚挙にいとまがない。

 一連のできごとは、デザイナーのみならずデザインに関わる者全員が自分にも関係する問題として、これからもずっと意識し続けなければいけないことだろう。

 さて、そして公募の仕切り直しが始まった。前回はそれなりのハードルが設けられ、国際的なコンペの入賞歴などが条件にあったが今回は撤廃され、日本にいる18歳以上のほぼ誰でもが応募できるようになった。オリンピックの競技に例えれば、自薦で100m走に名乗りを上げることができるようなものだ。またエンブレム委員会には、デザインを専門としない方々もラインナップされている。

 前回、取り下げの声を上げた人々に最大限配慮したルールの変更であり、もちろんこれで多くの人にチャンスが与えられ、埋もれた才能が発掘されることもないとはいえないが、審査には気の遠くなるような、途方も無い労力がかかることは確かだ。デザインに関する数年の実務経験くらいの条件はあってもよかったのではないだろうか。

 ともかく、大変な責務を引き受けた委員会の皆さんには敬意を表したい。お名前の中には信頼できるデザイナーやディレクターの方々が何人も見受けられることから、安心してお任せできると確信している。多数の作品を多数の委員会で選ぶという、私が知る限りは日本のデザイン史上、最も過酷なレースの結果は来春、明らかになる。

キャラクターデザイナー・森井ユカ(有限会社ユカデザイン代表/桑沢デザイン研究所非常勤講師)