2020年東京五輪・パラリンピックのエンブレムをはがす作業員(c)朝日新聞社
2020年東京五輪・パラリンピックのエンブレムをはがす作業員(c)朝日新聞社
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 今、やっと冷静に振り返られる時期が来たと感じる。当時はどこに行っても2020年東京五輪のエンブレム問題で持ちきりで、エレベーターに乗り合わせた大家さんからも「あなたたち(デザイナー)ってどうなってるの?」といきなり聞かれて狼狽したものだった。それまで、仕事のことを尋ねられることはなかったからだ。

 どの世界にもスターがいるように、当初選ばれたエンブレムのデザイナー・佐野研二郎さんは、私が教えるデザイン学校の生徒たちが憧れる存在であり、自分の一世代下のトップを行くデジタル世代の寵児としてまぶしく感じていた。

 デザイナーは発想力で勝負するのだが、時にその発想のスピードに制作が追いつかないことがある。1960年代生まれの私はちょうどアナログ(手作業)とデジタル(PC作業)の両方の制作環境を経験しており、アナログ期では作業に時間がかかり、もどかしく悔しい思いをしたことが何度もあった。

 その後デジタル環境が整ってからの万能感は例えるのが難しいが、あらゆる「手間」が軽減され分身が増えたように錯覚するときもある。楽が過ぎると、自分の手間と人の手間を混同してしまい著作権の抵触につながる危険もあるため、私の授業では年に2~3回、著作権についての講義を入れるようにしている。

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