知能をつかさどる遺伝子が解明されたとしよう。そのとき私たちは、金さえ払えば「賢い」子どもを宿すことができるのだろうか。
2013年春、「VICE」という国際情報誌のサイトで、「中国が天才赤ちゃんづくりをたくらんでいる」という刺激的なニュースが報じられた。見出しだけを見ると誤解を招きそうだが、実際には、中国という国家ではなく、中国に本社をおく世界最大級の遺伝子解析会社BGIが世界中の「天才」2000人のDNAを集めて、人間の知能をつかさどる遺伝子を探し出すプロジェクトを進めているというのがこの記事の趣旨だ。
記事によると、着床前診断を使えば100パーセントの男女産み分けが可能となった現在、この技術を使って「もっとも賢くなる受精卵」を選び出すことは難しくないという。理論的には、そうして生まれてくる子どものIQ(知能指数)は1代で平均5~15ポイント高まる。そして、子どもの知能指数が平均して5ポイント上がるだけでも、「経済的な生産力や国の競争力において、とてつもない違いになる」ということだ。
この記事は、BGIのプロジェクトに被験者として参加しているニューメキシコ大学のジェフリー・ミラー准教授へのインタビューをもとにしていた。彼は、別の「Edge」というオピニオンサイトで、次のようなことを述べている。
意図的に受精卵を選んで子どもの知能を高めようとする試みは欧米では反対が強くてできないが、中国なら抵抗なくやるだろう、そして、この試みが数世代にわたって続けられればどうなるか、と。
先述のように1代で5~15ポイント高まるとすると、次の世代、またその次の世代と繰り返されるうちに、「欧米にとってはもはやゲームオーバーだ」(ミラー氏)。
このようなコメントを寄せたミラー氏が、なぜ、自ら志願して被験者となったのか。それは、彼の専門が「進化心理学」だからである。この学問では、たとえば人間が生殖のパートナーを選ぶとき、より生存に有利と考えられる知能が高い相手を選びたいという心理が働くという仮説を立て、研究する。ミラー氏がBGIのプロジェクトに関心を深める理由はここにある。ちなみに、彼のIQは150前後だという(IQは平均が100、統計的に見て95%の人が70~130の間に収まるとされる)。