どうすれば小泉今日子のように、齢とともに魅力を増していけるのか―― その秘密を知ることは、現代を生きる私たちにとって大きな意味があるはず。

 日本文学研究者である助川幸逸郎氏が、現代社会における“小泉今日子”の存在を分析し、今の時代を生きる我々がいかにして“小泉今日子”的に生きるべきかを考察する。

※「小泉今日子にとって永瀬正敏は“憧れの人”だった?」よりつづく

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『踊る大捜査線 THE MOVIE』と『共犯者』での小泉今日子の演技について、相米慎二監督はこう言っています。

<がんばってるんだけれども、映ると隙間があるんだよね。なんだか上手っていうよりなんだかまだ持て余してるっていうか。わかんないんだけれど、映っていない部分の方がおもしろいんじゃないかなって感じがしたね>(注1)

 相米監督は、小泉今日子の中に「まだ演技の中で表現されていない鉱脈」を発見したのです。2001年に公開された次回作『風花』に、小泉今日子を主役として彼は起用します。

 永瀬正敏のデビュー作『ションベン・ライダー』のメガフォンをとったのは、相米監督でした。演出家と若き俳優は、この映画の撮影を通じて深い信頼で結ばれます。二人はそれからずっと、精神的な親子も同然でした(注2)。相米監督が小泉今日子の演技に目をとめたのも、「息子の嫁」への興味がきっかけだった可能性はあります。

『風花』に参加したことは、小泉今日子の演技に画期的な変化をもたらしました。このときの彼女の役柄は、娘を実家に預けて風俗嬢をしているレモンという女性です。『風花』の撮影をふりかえって、小泉今日子はこう言っています。

<レモンの感情みたいなものを考えていたときに、それが自分のものなのかなんかよくわかんなくなっちゃうみたいな。軽く狂っちゃってるかも(笑)って気持ちを初めて感じました。(中略)あのとき私がこういう人生を選んだんじゃなかったら……とか、よく自分がわかんなくなっちゃう感じがしてきて。永瀬くんと結婚して、たまに彼がそういう顔をしているところを見たことがあって、何なのこの人って思ってたんだけど、それが初めて実感として理解できたって感じ>(注3)

 ここで小泉今日子が述べている境地は、いわゆる「憑依状態」とは違うようです。別のインタビューで、彼女はそれをこんな風に説明しています。

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